オコジョ番長 -いちばん大切なもの-
□第五話
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終業式の日、フェレット番長とコジョルー、そしてクラスの面子は塚原医院に向かった。
二人はもう何度も訪れているが、相変わらず外とは違いすぎる病院内の空気には慣れなかった。
ナースセンターへ向かい、このフロアの見舞い客専用の帽子とマスクを貰う。
オコジョ番長は既に免疫力も危険な領域に達しているのだ。きっちり装着しなければ。
オコジョ番長「おうみんなー。あっ、からあげ!」
フェレット番長「し、仕方なく持ってきてやったよ」
相変わらず元気だ。・・・これのどこが死にかけなのか。
ママ「あの、ベッドに戻った方が」
オコジョ番長「ははは、これぐらいヘーキなのだ」
コジョルー「だめ!誰か来たら枕もとの空気清浄機のそばにいなきゃいけないんでしょ?」
オコジョ番長「ちえっ、何でいコジョルーまで」
この個室のベッドはビニールカーテンが上半身ぶんだけ囲ってあった。
頭の側の壁は一面が巨大な空気清浄機の吹き出し口の穴がポツポツあいており、ゴーゴーとうなるような音を立ててひたすら風を吐き出している。
これにより、免疫力のおちた患者の細菌感染を防ぐ仕組みになっているのだ。
ゆうた「オコジョ番長、具合はどう?」
オコジョ番長「ん?いやぁ、今にところはまだ何ともないのだ。でも今日から抗がん剤が始まるんだ。抗がん剤って知ってるか?」
ゆうた「うん。ちょろりくんに聞いたよ・・」
一同「・・・・・・」
不安や心配でいっぱいの一同をよそに、オコジョ番長はベッドの上に胡坐をかいて、呑気そうにからあげをパクパクと食べていた。
オコジョ番長「うめーーー」モグモグ
槌谷「あの、こんなの食べて大丈夫なの?」
フェレット番長(持ってきた俺も俺だが・・)
オコジョ番長「いいんだよ糖尿とかじゃねーし。だが、納豆や乳酸菌入りヤクルトはやばいらしい。よくわかんねーが、免疫落ちてるのと関係があるみたいなのだ」
フェレット番長「マジかよ」
オコジョ番長は入院してからも相変わらず健康な者のように食欲旺盛だった。
貧血も輸血で、熱も抗生物質の投与でおさまっている。
ところどころにある痣や斑点が気になる以外は・・。
オコジョ番長の鎖骨の部分には穴が開けられ、ビニールの管が生えている。
それは途中から三つに分岐し、一つは血小板と書かれた袋に繋がっていた。
学校で習った。血小板がないと血が止まらなくなる。
もう一つは無色透明のなぞの液体。舌をかみそうな名前の薬だった。
残りの一つははどこにもつながっていない。これが抗がん剤が入るところである。
それぞれの点滴袋は外付け速度調整装置の機械とセットになっており、点滴が落ちるたびにピッピッと電子音が鳴る。
ちょろり「ひょえーっ。だ、大丈夫でやんすか?」
オコジョ番長「こんなの言うほど大したことないのだ」
皆、見るからに痛々しい点滴と、オコジョ番長の様子のギャップに戸惑っていた。
トモコ「あの、やっぱりあんまり食べない方が・・」
オコジョ番長「何でなのだ?」
トモコ「抗がん剤って、副作用で吐き気がひどかったり、戻しちゃったりって聞いたし・・」
あのトモコも、心配そうな顔でオコジョ番長に言う。
オコジョ番長「そうみたいだなー。でもその辺は、割りとひとによるみたいだぞ。薬との相性もあるんだってよ」
トモコ「そうなんだ」
そう聞いて、少しほっとしたようだ。
オコジョ番長「これからどんどん色んな抗がん剤が打たれるけどなあ・・。頑張らなければ。ふぅ」
フェレット番長「まっおめーなら」ポンッ
フェレット番長はオコジョ番長の肩を軽く打った。
フェレット番長「からあげがあれば殺しても死なないから平気だろ」
・・・ほとんど効かないかもって医者が言ってたけど。
フェレット番長(そんなことねーよな・・。こんなに元気なんだから)
やがて、看護婦が明るいオレンジ色の液体の入った袋を持ってきた。
あれが、抗がん剤。