オコジョ番長 -いちばん大切なもの-

□第四話
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小さな応接間のような部屋の正面にホワイトボードと白い垂れ幕。

机の上にカメラの付いた顕微鏡とプレパラート、プロジェクターが置いてあった。

塚原「オコジョさんは、白血病の中で最も悪いタイプだ」

フェレット番長(最も悪いって、そんな・・)

塚原「『急性巨核芽球性白血病』というもので、昨年一年間に国内では四人しか報告されていない。残念ながら予後はかなり厳しい。現代医学でも救命しづらい最悪のタイプだ」

塚原はプロジェクターを動かし、垂れ幕に映像を写す。

顕微鏡の丸い視野の中にたくさんの赤や青のボールのようなものが映っている。

塚原「これは、先ほどオコジョさんの骨髄から取り出した、今そこのプレパラートに乗っかっている骨髄の中身の映像。中に写っている青いいびつな形の細胞、これは全部『巨核芽球』という白血病の細胞だ」

そこには、いかにも悪そうなグチャグチャな形の青い細胞が寄り集まっていた。

塚原「なお、こちらが正常な骨髄」

別の写真が提示される。 オコジョ番長のものとは違い、整った形の美しい細胞ばかりであった。

塚原はスムーズに説明を進める。

今まで数え切れない患者や家族に絶望的な結果を伝えてきたのだろう。

青いモンスターがオコジョ番長を食い荒らしている・・。

想像して、フェレット番長は震えた。

母「どうして、どうして!?だってあの子はまだっ・・」

父「そんな、俺より早く、死・・」

妹「や、やめてよ父さん」

嗚咽と号泣に包まれる部屋。青いモンスターの大群は白い幕の上で一同をあざ笑っているようだった。

フェレット番長は、自分の胸に顔をうずくめたコジョルーの背中を抱きしめる。

雫の冷たさをたくさん胸に感じた。

妹「先生、骨髄移植はできないんですか・・?」

塚原「もちろん骨髄移植は一番有効な治療法だ。しかし、その前に抗がん剤で骨髄から体中に出てしまった大量の白血病細胞を殺して病状を安定させなければならない。これを寛解というんだが・・・このタイプは、今までのデータから見て抗がん剤の効きがあまり良くない」

妹「そんな・・・」

塚原「それに骨髄移植を行ってもこのタイプは生存率は20%。ドナーがいなかったり、細胞を殺せなかったりして移植が行えなければ、残念ながら、ほぼ0%。だがもちろん、こちらも最善を尽くす。頑張りましょう」

塚原は、わんわん泣き続ける父の肩を叩いた。

塚原「とにかく、あらゆる手を使って、『寛解』に持ち込む必要がある。ご家族の方は、ドナーになれるか検査をさせていただきたい」

・・・

帰り。

フェレット番長「何だよ、これが21世紀の最新医学なのかよ」

コジョルー「る・・?」

フェレット番長「何でもできちまう時代なのに、こんな誰もが知るような病気で生存率ゼロって、何なんだよっ!ありえねえよ!!」

コジョルー「やっ、フェレット番長!やめてよぉ」

気が付くとフェレット番長はコジョルーの肩を揺さぶっていた。

フェレット番長「わ、悪ィ・・」

・・・

フェレット番長の家。

フェレット番長「何で、何で!!」

もう終わりだ、あいつがいなくなる。

いつも言い争いばかりしていて、すぐに喧嘩になって。

俺よりもチビの癖に生意気で、何故か頭に葉っぱがついてて。

だけどやっぱりいい友達で。

そんなあいつ一人、俺は救えないんだ。

何も出来ない俺は、とてつもなく無力だ。

フェレット番長「うぅぅ、うっ・・う・・」

フェレット番長は我慢していたものがはちきれるように、泣き声をあげた。


・・・
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