□生贄
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こわい
鬼だ
捕まって食べられてしまう
そう思って逃げようとしても、こわくてうまく動けない
這いずるようにして逃げた先の泉の水面に映った自分の顔を見ると鬼の言うように
額に角が1本生えていた

「……なにこれ」

「わかりましたか
あなたは鬼なってしまったんです」

「うそや
そんなん、うそや」

「うそじゃないです
本当です
おおかた毒かなにか飲まされて死んだところに鬼火が入ったのでしょう」

毒を飲まされた?
わからない
でも旦那さまがくれたお茶を飲んだ後苦しくなった
あの優しい旦那さまが、毒をのませた?
若旦那さまは、ゆきが気に入らないのかことあるごとに難癖をつけ
ゆきを折檻した
でも旦那さまは、そのたびにかばってくれて、皆に隠れておまんじゅうをくれたり
かわいがってくれていた

「うそや
旦那さまがそんなことするはずない
帰る!村に帰る!」

「…帰りたいなら帰りなさい
子どもの足で1人で暗い山道を降りれますか?
万が一無事に帰れたとしても生贄に捧げたはずのあなたが帰ってきたら、村の皆は困ると思いますよ
ましてやあなたは鬼なってしまっている
石を投げられ殴られ、もしかしたら殺されるかもしれない
だから私と一緒に地獄にきなさい」

「…っ…っやだぁ…
村に帰るぅ…お菊ねえちゃんとこに帰るぅ…
…うわぁぁん…」

「…泣いてもどうにもなりませんよ」

そう言いながら鬼灯は、ゆきの泥をはらって、手ぬぐいを濡らし顔をふいてやった


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