ご夫婦の部屋

□パパラッチ
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それに、さっきから俺に向けられるその表情も声色も、二人きりの時特有の甘さを滲ませていて、しかも至近距離で見つめてくるもんだから、いやがおうにも俺の鼓動のリズムは少し早くなってしまう。

(キス、したいな。)

そんなことを思って、ついぼんやりとしてしまう俺に、シヌが、ん?と首を傾げてくるから、俺は慌てて首を横に振った。

「…サボってる。」

シヌは毎日どんなに忙しくても朝晩の手入れを欠かさない。
一方の俺は、そういうことには無頓着で。
こんな仕事をしているんだから、肌の管理だって自己責任だって分かってるけど、横着な俺はつい面倒でサボりがちになってしまう。
メイクしたまま寝てしまうことだってあるし。

「ダメだよ、ちゃんとしないと。ただでさえ毎日濃いメイクで肌に負担かけてんだからさ、今は若いから気にならないかもしれないけど、後々困るよ?」

その言い方がなんだかとてもヌナっぽくて、思わず吹き出しそうになる。

「こら、何笑ってんの。」

「いや、シヌヌナだーって思ってさ。」

クスクスと笑い続ける俺をシヌはしばらく困ったような笑みを浮かべて見ていたけど、ふいにコホンと小さく咳払いをして、俺の肩に手を置きに軽く押してくる。

「じゃあさ、ヌナじゃないとこ見せてやろうか。」

「え…」

シヌの言葉の意味を探る暇も与えられず、座っていたソファーにそのまま体を沈められる。

覆い被さってきたシヌが、俺の剥き出しになったオデコに唇を落とす。

「眉毛見えてんの、なんか可愛いね。」

そんなことを囁きながら、何度も何度も頬に額にキスの雨を降らせてくる。

「ん……シヌ、くすぐったいよ…」

俺が身を捩ってそう訴えると、シヌはわざとチュッチュッとリップ音をたてて、キスは激しさを増す。

時折敏感な耳元近くを唇が掠め、ついびくびくと体が反応してしまうのを抑えるのに必死だった。
別に堪える必要もないんだろうけど、容易く感じてしまうところを見せるのはなんだかヤル気満々みたいで少し釈というか。
とはいえ、本音を言えば、俺の身も心もすっかりこの先の行為を期待してしまっているけど。

「あと、これもヤバイね。」

「え…?」

「パジャマ。…可愛い。」

脱がすのもったいないからって言って、ボタンを上から2つだけを外して、露になった鎖骨に吸い付かれる。

「ん…、脱がさないでするつもり?」

「…脱がされたい?」

「……シヌの好きにしていいよ。」

「じゃあ、まずはこのまま…」

「まずは、って何だよ(笑)」

「ん?だって、夜は長いだろ?」

シヌがニッと口角を上げてから、触れるだけの口付けをしてくる。

「でもこれは笑えちゃうから、取るね。」

そう言って、シヌが俺の髪に手をやり、縛っていたゴムをスルスルとほどいた。

「そういえば、もう写真はいいの?スッピンの。」

「ああ、今日はもう撮らないよ、気が変わった。」

「ふふ、今はそれどころじゃないって?」

挑発するみたいに、シヌの首に両腕を絡ませる。

「それもあるけど、」

「あるけど?」


―――独り占めしたくなった、お前の素顔。―――

耳元で囁く声が甘くとろけた。





END
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