短編
□ありがとう
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『伊東さん...』
「...ん、何か用か?」
部屋の中を行ったり来たりと忙しそうにしていた彼を、私は呼び止めた
そして今まで思っていたことを口に出す
『あの、最近様子が変ですよ...?』
「...そうかな?」
『はい...、久しぶりに真選組に帰ってきて下さったのに...。前より...なんか...』
戸惑う私に、彼は笑顔をつくって答えた
でもその笑顔はどこか寂しそうで、いつもの私が好きな伊東さんの笑顔とは全く別物だった。
「何にもないから気にするな、ありがとう」
伊東さんはそう言うと私の頭をポンポン、と二回ほど撫でた。そして伊東さんは廊下の先へ消えていった
† † † †
縁側で一人、西の空へ沈む太陽を見つめていた。空全面がオレンジ色で染まっていてとても綺麗だ。
「...名前ちゃん、ちょっといいかな?」
『近藤さん....どうしたんですか?』
すると横から私を呼ぶ声が聞こえた
近藤さんは私が返事をすると、私の隣へ座る
「実はだな、今日俺たち...真選組皆、ちょっと出掛けることになってるんだよ、先生と一緒に...」
『...伊東さんも?』
「あぁ...そこでだ、危険だが...名前ちゃん、一人でお留守番できるか?」
『ちょ、バカにしないでください、できますよ全然!』
「そうか!それは頼もしいな!よろしくな!」
近藤さんはニッと笑うと、私の頭をわしゃわしゃと、雑に撫でる
『あのっ...』
「ん?」
『...あ、いえ、何でもっ!!』
しかし近藤さんも、伊東さんと同じ、寂しそうな笑顔だった。
そんな笑顔を見せられたら、何も言えなくなった
伊東さんに何かあったのだろうか....