短編
□雨の日の温もり
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‐十五年前
『...さむい...』
ボロボロになった寺で雨がやむのを待っていた。
――私はまだ5歳で、親はいない。捨てられたんだ。もともと親は私を生む気は無く、育てる気も無いから捨てたんだろう。日頃から酷いことをされていたし別にどうってことなかった。
雨のなか行くあてもなく、森のなかをさ迷っていた。すると目の前にボロボロの寺が見えた。誰の気配もせず、きっと捨てられたんだろう、私みたいに。誰も居ないのなら暫くここで過ごそうか。
それにしてもここのところくなものを口にしていない。お腹すいたし親いないし寒いし....泣きたくなる。けど、どうしてだろう、涙が出ない。
私はいつしか泣くことや笑うこと等と言う感情表現ができなくなっていた―――。
『...おなかすいたなぁ....』
ポツリと呟いた言葉は、雨によって遮られた。
((ざっ―))
『!!!』
寺の前で足音がした。誰かと思い俯いてた顔をあげると、そこには背の高い男の人がたっていた。
「君!そないなとこで何しとるん!はよ、お家帰らんと風邪引くで!」
その男の人は険しい顔でこちらに向かってきた。"お家"と言う言葉に返答する。
『...かえるばしょなんかあらへん...』
「!....そ、そか...」
すると男の人はうーんと考え出す
しばらくの沈黙の後、あっ、と声をあげた
「せや....ウチ来るか?」
『えっ...』
「帰る場所あらへんのやったらウチ来たらえぇよ」
『..えぇの...?』
「おん、せやからおいで?」
そう言うと男の人は自分が身に付けていたマフラーを私に巻いてくれた。とっても暖かい。
何より嬉しかったのは、私を受け入れてくれたこと、私を引き取ってくれたことだった。
マフラーを巻くと「よいせ」と私をおぶってくれた。その背中は感じたことのない温もりがあった。
それがとても心地よく、いつの間にか寝てしまった....。
―これが、私と柔兄との出会い