頂き物

□今だけは…【続編】
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俺は、円堂監督に知らされた事に、衝撃を受けた。内容については、数分前に遡る。

『神童!』

『はい、何ですか?』

『お前だけに伝えておきたい話がある。』

『俺だけに…?』

今後のシードへの対策とか、戦うことに関するこ とかと思ったが、違った。

『剣城のことなんだがな…』

『剣城…ですか?』

俺は剣城に対してただ「シード」としての、印象 しかもっていなかった。だから剣城のことをどう するかっていう内容かと思った。だが。

『キャプテンなんだろ?だったら部員の力になってやりたいと思わないか?』

『え…それって、剣城にですか?』

『ああ。』

『なんでですか!あんなやつの力なんかに、何で!』

『あのな、神童。』

『はい。』

『剣城が昨日、俺んちにきたんだよ。』

『え!監督、何かされたんですか?』

『ああ。泣きつかれたぞ。』

『…はい?』

自分の耳を疑った。あの剣城が泣いた?あり得ない。

『あいつがさ、いつもお前たちに見せてる姿は、 本当の姿じゃないと思うんだ。』

『どうしてですか!』

『あいつ…自分のことを見下したような言い方を してたんだ。』

『剣城が?』

『ああ。泣き出した剣城を、俺が頭を撫でてやっ た時、「安心して嬉しいって思ってる俺がいる! こんなの、駄目なのに!」って、苦しんでた。』

監督は、どこか悲しそうにそう言った。剣城には、安心できる場所がないのか?

『何で剣城はそんなことを…』

『分からない。でも、あいつは優しさに触れることをこわがっている。もしかしたら、剣城は優しさに触れたことが少ないんじゃないか?』

俺は親にたくさん優しくされて育ってきた。だから今の話を聞いて、驚いた。

『ま、俺の想像にしか過ぎないんだけどな。』

『円堂監督。』

『ん?』

『今日の練習、剣城来ますかね?』

『…来るといいなあ。きっと、寂しさでいっぱいだろうから。』

そして、現在に至る。今は、朝練の数分前の時間だ。剣城、来るかな…

すると、おはよう。という、声が聞こえてきた。 声のした方を振り向くと…

「おはよう、霧野。」

「おう!相変わらず早いな!」

霧野と他愛もない話をしていると、あっという間 にメンバーが集まった。

「よし、練習いこうぜ!」

「ああ。」

その時、俺は思った。剣城はこんな他愛もない話 さえもできないのだろうか。何だか、胸が痛い。

結局、剣城は朝練には来なかった。何だか心配になってきた。

午後練になった。ついに、剣城が姿を現した。俺たちとはかなり離れたところに。いつもと変わらない表情に態度。でも、今日はイラっとしなかっ た。

(今日も見ているだけなのか…)

そんなとき、天馬が派手にずっこけた。信助もすぐ後ろにいたので、一緒になってずっこけた。

「「いってー!」」

「おいおい…大丈夫か?」

ふと、剣城の方を見てみた。すると、剣城はくすくすと笑っていた。その笑い方が、いつもの笑い 方と違うものだった。皮肉めいた、こちらを馬鹿にするような笑い方じゃなく、ただ純粋に笑っていた。だが、その笑顔もすぐに消えてしまった。 俺がみているのに気づいたからではない。剣城 は、悲しそうな声でこう言っていた。

「俺には、あいつらを笑う資格なんてない。あんなに痛めつけたのに…」

何故かはっきりと聞こえた。俺は元々耳はいい方なのだが、あんなに遠くの声かはっきり聞こえるなんて。そして剣城はその場から立ち去ってし まった。俺は、その後ろ姿が忘れられなかった。
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