頂き物

□泣かないで
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「じゃあ、先帰りますね。三国先輩」

「ああ、また明日な、天馬!」

今日の練習も無事終わり、後輩たちがどんどん 帰っていく。俺は今日鍵当番なので、最後まで 残ってなくてはならない。

「…みんな帰ったか?」

車田たち3年はみんな帰ったし、神童たち2年もみんな帰った。あとは…

「1年はみんな帰ったっけ?」

自分が見送った1年を頭の中で数える。天馬は さっき帰ったし、信助も天馬と一緒に帰った。 狩屋は霧野をからかって追いかけられてたが、そ の後見ていない。まあ、大丈夫だろう(笑) 影山も俺に挨拶して、帰ったはずだ。 剣城は…

「そういや、見ていないな…」

俺が気づかぬ内に帰ったのだろうか。あいつは シードを辞めて、俺達の仲間になってから、ずい ぶんおとなしくなったものだ。まるで別人のようだ。

「…一回部室の中を探してみるか」

とりあえず、更衣室から覗いてみた。剣城のロッ カーを開けてみる。すると、まだ学ランが残っていた。

「まだ、いるのか?」

部屋を出て、他の部屋を探しにいく。ミーティングルームを覗いてみる。すると、剣城が椅子に座っているのを発見した。

「剣城?そんなところで何をしているんだ?帰るぞ!」

声を掛けたが、返事がない。どうしたんだろう。

「おい、剣城!」

返事がない剣城の顔を覗く。すると、剣城は目を 閉じていた。だが、それだけではなかった。

「……う」

「剣城?」

剣城のその目からは、

涙の後が、一筋流れていた。

「ど、どうしたんだ?」

剣城が涙を流すなんて、よほどのことがないと、 あり得ない。だが、眠っているはずの剣城の目からは、涙が…

「うなされているのか?」

そうとしか、思えなかった。よほど怖い夢でも見 ているのだろうか。

「剣城、起きろ。眠いなら、家で寝るんだ」

とりあえず、起こすことにした。このまま寝かしておいても、何だか可哀想だ。ところが、剣城の目は開かず、新しい涙が流れてきた。

「……に、いさ…」

「…寝言か?」

何だか、物凄く悲しそうな声だった。にいさ…っ て、もしかしたら、剣城のお兄さんのことかもし れない。確か、天馬から聞いた。

「剣城…安心しろ。お兄さんなら、きっと歩ける ようになるさ。だから…」

泣かないで。

そう心の中で呟いた時、剣城の目が、ゆっくりと 開いた。

「先輩…?どうしてここに?」

「お前がこんなところで寝ていたからだ。それより剣城」

はい?と答える剣城の目元を、拭ってやる。剣城 は何故そんなことをされたのか、わかっていないようだ。

「いきなり、どうしたんですか。三国先輩」

「…無理するなよ」

「…あ、すみません。寝てしまって。ちょっと眠 かったんです…」

目を眠そうに擦る剣城。そんな剣城の手は、小さ い子のように、暖かかった。

「暖かいな…お前」

「いつもは低いんですけど…眠いと暖かくなるみ たいなんです、俺の体」

そうか、と返してやれば、剣城はええ。と答え る。この時思った、まだ剣城は俺より幼いのだ と。

「三国先輩、じゃあ俺、帰ります。さようなら」

「…待て!」

「え…まだ何か?」

「まだ眠いんだろう?だったら俺の膝の上においで」

我ながら何を言ってるんだろうと思った。だが、 剣城はずっと一人で抱え込んできた辛い気持ちが あるのだ。ここは先輩として、後輩に優しくして やりたい。例え剣城でも。

「そ…それは、膝枕ってことですか?結構です… 家で寝ますから」

「遠慮するな。ほら、剣城。おいで」

「……」

俺は、なかなかこようとしない剣城を、無理矢理 膝に乗せてやった。
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