短編
□今だけは…
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「だいたいこんなところですかね……。ほら円堂監督。起きてください。」
「む…うぅ……。ふぁ〜……。」
音無に起こされた俺は大きな欠伸をひとつする。音無はやれやれと首をふっていた。
「もぅ……練習試合の打ち合わせでうたた寝する人がいますか……。」
音無にあきられぎみにそう言われた俺は、サッカー部のミーティングで使われる長机に突っ伏した。
「しょうがないだろ〜?昨日なつみの作った飯で腹が痛くて全然寝れなかったんだから…。あっ…思い出したらまた痛くなってきた……おぇ……。」
「気持ちは分かりますけどここで吐かないでくださいね!」
「わかってるって…うっ……。」
「もぅ…。でも今日から三日間なつみさん旅行でいないんでしょう?しばらくは雷々軒とかにお世話になれるじゃないですか。」
「ま、まぁな……。(グルルルちょっ…マジでヤバイかも…ト、トイレ行ってくる……。」
「あっ、え、円堂監督!ちょっと待ってください!」
音無の言葉に、俺は部室を出ようとしていた足を止めた。
「別に監督いらないって……なに?」
「そ、そうですか?じゃあ円堂さん。その……剣城君のこと…どう思ってるんですか?」
音無の言葉に俺は、紫色の改造制服に身を包んでいた教え子を思い出す。
「どうって……すげぇサッカーうまいとおもうけど?」
「そうじゃなくて!彼はシードなんですよ!フィフスセクターから私達を潰すように言われているんです!なのに今日の試合に普通にだしたりして!」
今日行われたのは万能坂中との試合。スコアは0対1で雷門の負けと決まっていた。その試合前にシードである剣城から、自分を試合に出せと言われた。
「いいじゃないか別に。最終的に勝ったんだからさ。」
そう。最初に剣城は、勝敗指示を守るためにわざとオウンゴールをした。そうすればあとは敵チームが自分のゴールを守るだけでいい。
しかし何を思ったのかそのあとは足を狙われた天馬を助けたり、自ら点をいれてチームを勝利に導いた。
「た、確かにそうですけどっ!もしあれで勝敗指示を守り続けていたら…。」
「もしもなにも結局は勝っただろ?結果オーライって事でいいじゃないか。そんな事でぐちぐち悩むんじゃない。とにかくサッカーやろうぜっ!」
俺が冗談をまじえてそう言うと音無は口をぽっかりと開けて、そのあとに苦笑した。
「まったく…あなたって人は……。昔からそればっかり………。」
「はははっ!これが俺の普通だからな!(グギュルルル…うっ…やべぇ…笑ったら腹が……。じ、じゃあな…もう遅いから気を付けて帰れよ……。」
俺の言葉に音無は腕時計を確認する。
「本当だ……。もう八時…。でも私はもう子供じゃないですよ。円堂さんは色々な意味で気を付けてくださいね。お疲れさまでした。」
音無が笑いながらそう言って先に帰った。俺は痛む腹を押さえながら重い足を引きずってトイレにいった。