短編
□犯した罪は…〈前編〉
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ドガッ!
ガッターン!
「かはっ……」
「おらおらどうした!最初のころの威勢はどこにいった!?」
「まだ終わってねぇんだけどなー。えー?エースストライカーの剣城君?」
「ほらよ。さっさと起きな。」
「つぅ…!」
グイッと前髪を掴まれて、俺は強制的に立ちあがされた。
ここは雷門中の近くにあるいくつかの倉庫のうちのひとつだ。倉庫といっても、もうすでに廃墟同然で肝試しで夜中にたまに人が訪れる程度のところである。
もうどのくらい時間がたったのだろう。痛みでぼうっとする頭でそんなことを考える。倉庫の壊れた窓ガラスから夕焼けらしき光が見える。俺がここにきたのは学校がおわってからだからだいたい1、2時間ってとこか…。
今日は長いな…。
『今日は』
そう別にこの三人にこうやって暴力をふるわれるのは初めてではない。これでだいたい5回目。
俺の目の前にいるこの三人は2年生。相手が上級生だというのもあるが、元々俺はこの人達にやり返す気は毛頭ない。
だって最初に傷つけたのは俺だから。
この三人は元雷門サッカー部にいた人達。セカンドチームにいた人達だ。もう少しでファーストチームにはいって、フィフスセクターの指示があるものだとしても試合にでれるはずだった。
その夢を壊したのが俺。
兄さんのためといっても、俺は自分の意思でこの人達を傷つけた。なのに俺は今度は仲間として今の雷門でエースストライカーをやっている。
この人達からみればふざけるなと思うのも当然だ。
「ぼけっとしてんじゃねぇ!!」
その怒声とともに俺のみぞおちに蹴りがはいった。一瞬息がつまる。
俺はそのままそこに崩れ落ちた。
そこを容赦なしに三人から蹴られる。
やはりセカンドチームにいただけはあり、キック力はかなり強い。
俺は先程からふっと、意識が遠退きかけていた。前に比べて暴行を受けている時間も長いからだろうか?
だが蹴りの痛みのせいですぐに意識はこちらに戻される。
「ふぅ……。今日はこのくらいにそしとくか?」
「あっ!?俺はまだたんねぇぞ!」
「落ち着けよー。
そろそろここも先公に見つかるぜ?この前俺のクラスのやつがここで凄い音が聞こえたから逃げてきたって話してたし。」
「なら場所をかえればいいろう!」
「それだけじゃないんだよ。こいつの痣が見つかったらなんていわれるかさー。」
「こいつが黙っていればいい話だろうが!!」
「いいから落ち着けって。これで最後にしようぜ?俺はそろそろまずいからさー。親にばれかけてんだよね。」
「あっ、俺も。なんかおふくろに『部活ないのに』何でこんなにおそいの?って言われた。ほっとけよなー。」
『部活ないのに』
その言葉が少し強めに言われていたのは気のせいではないだろう。
その証拠にそういった人は、笑ってはいるが俺を見下ろす目はひどく冷たい。
「しかし……。」
「お前がどれだけ腹がたっているかは知ってるって!でもこんなやつのせいで警察に世話になんのは嫌だろ?」
「俺もさんせー。ってことで今回で終わり。いいだろ?」
「……ちっ。仕方がないな。」
「よし!じゃあ決まり!」
「いままでご苦労さん。ってかお前もよく毎回来てたよなー。もう来なくていいぜ?」
「案外ドMだったりして。」
「まじで!?うわっ!ひくわ!」
そうやって勝手に話を進めて盛り上がっている二人に対し、もう一人はかなり不満そうだ。ってか誰がドMだ。
俺にそんな趣味はねぇ!
そう思いつつも、もう来なくていいんだという安心が胸に広がった。当然だと思っていたとしても、毎回手当てがかなりめんどくさいし、サッカー部の着替えもまともにできなくて正直困っていた。