緑の巻物

□涙
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もうほとんど、日課となっていた。

長い廊下を足早に歩き、白いドアを静かに開ける。

まだ病室にいる人物は眠っているのだろうが、彼なりに気を使っているのだった。

その大きな体には似つかわしくないほど小さな音を立てて、ドアは開いた。

時間が止まってしまったかのようなその部屋に、佇む人物を見つけて思わず呟いた。

その人物もかすかにドアが開く音に振り向いて小さく呟いた。

「トットリ…」

「コージ…」

開けた時と同じように静かにドアを閉めてから、コージは言った。

「ぬしも…来てくれとったんか」

毎日ここへ通っているが、人に会ったのは初めてだった。

そんなことを知ってか知らずか、トットリは返事をせず、目の前のベッドを見下ろしていた。

あの島で、共に戦った仲間が…横たわっている。

物も言わずに。

包帯に包まれて。

全身に大火傷を負って…。

トットリは冷ややかに言い放った。

「見に来たんだっちゃ…どんなに苦しんでいるか」

その言い方が気になったコージは、トットリの顔を見た。

その横顔は怒りを含み、今にも掴みかかってやりたい気持ちを必死で抑えているようだった。

「トットリ…今そがぁなことを言うのはやめぇや」

コージは思わず咎めるような口調で言った。

トットリが、その目の前で横たわる人物を嫌っているのは知っている。

けれど当の本人が動けずにいる今、悪口を言うのは正当ではないと思ったのだ。

動くどころか口をきくこともできない、…いや、きくことさえできずにいる前では。

コージがトットリの代わりに謝るように、ベッドの中の顔を見た時だった。

「けど…コージもアラシヤマが苦しんでいるのを見に来たんだっちゃろ…?」

怒りを押し殺した、その声。

殺意を隠した、その顔。

何度となく見たことがある『殺し屋』としての同僚の顔。

このままでは感情に任せて、ベッドの中へと刃を向けかねない。

そう思ったコージは、トットリの腕を取って言った。

「まぁ…とにかく…外に出ようや」

室外へと促すコージの手を素早く払いのけ、トットリは見上げるほどの位置にあるその胸倉へ掴みかかった。

「アラシヤマなんかッ…アラシヤマなんか苦しめばいいんだっちゃ!!苦しんで苦しんで、思い知ればいいんだっちゃ!!」

「どがぁしたんじゃ、落ち着け、トットリ!」

怒りのすべてを込めてぶつけてくる。

いつになく興奮するトットリをコージは何とか宥めようとした。

仮にもここは病室、大声を出す場所ではない。

「苦しめばいいんだっちゃ!!アラシヤマなんか…ッ…苦しんで…知ってほしいっちゃ…僕らも…どれほど苦しい思いをしているか…」

怒りがこもっていた瞳は、悲しみに揺れた。

思いと力は同時に抜け落ち、支えを失ったトットリの体はコージへと傾いた。

「トットリ…」
 
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