緑の巻物
□髪
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「みなはんを巻き添えにしてしまいますけど堪忍な」
「好きにせえや、アラシヤマ」
そう言うと、気高くも美しいその人は、内にあるすべての炎を解放した。
一気に燃え上がり巨大な火柱となった赤い炎は、一瞬のうちにオレンジ色になり、次の瞬間には黄色く光り、あっという間に白く輝く柱となった。
その光の柱の中に、消えていく人影。
見たこともない美しい技に見とれると同時に、見たこともない恐ろしい技に思わず数歩後ずさった。
「こ…こりゃあ…!?」
『わがまま聞いてもらえますやろか…』
ふと、その時の顔が浮かぶ。
許しを求める言葉など、初めて聞いた。
この島で変わった…。
ただそれだけだろうか。
今まで好き勝手に殺戮を繰り返してきた男が。
ただ盛大な炎を出すだけのために、許しを求めたりするだろうか…。
『好きにせえや、アラシヤマ』
その時見せた、一瞬だけの静かな微笑み。
そしてその直後に、天まで焼き尽くさんとする、この炎。
それは、まるで…。
「アラシヤマッ!!」
それは、まるで、死を覚悟したかのような…。
「ッ…コージ!!」
「危ないっちゃ!!」
コージは臆することなく、その炎柱の中へと飛び込んだ。
『堪忍な』
他人に頭など下げたことのない男が。
何故炎を発する前に謝罪したのか。
巻き添えにするから…?
そんなこと、毛頭気にもしていない。
元々命を賭けるつもりだったのだから。
それがわかっていて、何故…。
『みなはんを巻き添えにしてしまいますけど堪忍な』
もしかしたらここで、皆死んでしまうかもしれない。
けれど運良く生き延びることもできるかもしれない。
…アラシヤマ以外は。
だから謝罪した。
みなはんが助かっても、きっと大火傷は免れまへん。
その時謝りとうおすけど、自分はもうこの世にはいいひんさかい…今のうちに謝っておきます。
『堪忍な』
そういうことだったのではないだろうか…!?
自らの命を燃やして。
自らの体をも焼き尽くして…。
「アラシヤマ!!」
燃えさかる炎が生み出す熱気の渦の中を、コージはひたすらアラシヤマの名を呼んで進んだ。
すべてを焼き尽くそうとする炎を手で払いながら、目を開けているのもやっとの灼熱の中を。
―――死ぬな、アラシヤマ…!
ただ、その想いだけで。
「アラシヤマ…ッ!!」
白い炎の中に黒い影を見つけて、コージは駆け寄った。
すると、そこには。
ぐったりとしているアラシヤマと、…それを支える人物がいた。
―――特戦部隊の…。
コージが見つめていると、その人物は意識のないアラシヤマをコージの方へ押しやった。
そして一瞬だけコージを見つめると、踵を返して炎の外へと消えていった。
頬の傷…、あれは…火傷?
その潔い背中は、どことなくアラシヤマに似ている…。
コージはその人物が消えていった方を見ながら、アラシヤマの体を抱えた。
そして自分も、来た道を急いで引き返した…。