緑の巻物

□ストレス
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思わず、ため息を吐いた。

「…はぁ…」

手にしていた書類を無造作に机に放り投げ、頭と胃を同時に押さえた。

「…はぁ…」

もう何も見たくない、と言わんばかりに目を閉じる。

「…はぁ…」

出てくるのはため息ばかり。

「…アラシヤマ上官…」

声がしたので目を開けると、部下がお茶を差し出してくれた。

「ほうじ茶です」

「あぁ…おおきに」

一礼して部下は下がる。

…ホンマによう気の付く部下やわ…。

新生ガンマ団になってからここ何ヶ月かの間に、アラシヤマは胃を痛めていた。

朝昼晩と薬を飲んでいるが、一向に良くならない。

それどころか、ますます酷くなっていっているようだ。

それを察しての部下の配慮。

いつも飲んでいる緑茶よりは、少しでも胃に優しいほうじ茶を…と。

こんな自分の部下にしては、出来過ぎているほどだ。

アラシヤマは出されたお茶を一口飲んだ。

教えたわけでもないのに、入れ方も完璧。

お茶の温かさが胃に染み渡るように、部下達の気遣いも心に染み渡った。

「ふぅ…」

一息つくと、気持ちが落ち着いた。

…短気な方ではないと思う。

どちらかと言えば我慢強い方に入るだろう。

滅多なことでは怒りにまかせて感情を爆発させる性質でもないと思う。

いつだって、どんなことにも冷静に対処してきた。

新総帥の手に渡る前の書類は、全てこの部署でチェックを入れている。

その量たるや…文字通り『休む暇もない』ほどである。

誤字、脱字、記入もれ…それらが例え千枚に一枚あっても大変なことになる。

資料を揃えて誤りを訂正しなくてはならないからだ。

ここで書類が滞ると、上に行くのも遅くなってしまう。

だから、新総帥の秘書達からも全部署に注意が行っているはずなのだ。

『誤字、脱字、記入もれ等、書類上のミスは一切控えるように』と…。

それなのに…。

「あのアホども…」

何度言っても直らないミス。

死線を共に戦ってきた仲間だから…と、少し甘やかしすぎただろうか。

『同僚』となったのに、仕事の量はどう見ても『同量』ではない。

自分より少ない仕事量なのに、毎日毎日不完全な書類を持ってこられたのでは、どんなに穏和な人間でも怒りを覚えるだろう。

ここらで一つ、灸を据えておかなくては。

アラシヤマはお茶を一気に飲み干して、忌々しい書類を手に立ち上がった。

「ちょっと出てきますさかい、戻るまでお願いしますわ」

「はい!」

近くにいる部下に声をかけ、アラシヤマは部署を後にした。

胃の辺りに、軽く手を当てながら…。
 
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