緑の巻物
□黄金の獅子
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ゆっくりと。
その日も、ゆっくりと降りてきた。
一歩ずつ、ゆっくりと。
帰ってきたよ…と言うかのように。
風になびく金色の、たてがみを揺らすライオンのようなその姿を、確認させるかのように。
微笑みながら降りてきて、大きな腕をいっぱいに広げる。
それを待っていたかのように、兄弟達は競って腕の中へ飛び込む。
安らぎと温もりを求めて。
けれどその日は、何かが違っていた。
太陽に照らされる金色の髪も、自分達を映し出す青い瞳も、力強くたくましい腕も、何一つ変わっていないのに。
「パーパ…?」
抱きしめられた腕の中で、そっと見上げる。
微笑みかけるように、その目は静かに閉じていった。
しかしそれに反するように、腕の力は強くなっていく。
そしてその時、父は、確かに言った。
「 」
「……………」
一度は目を開けたものの、カーテン越しに入り込んでくる光が眩しすぎて、ハーレムは目を閉じた。
……夢か…。
瞼を通り越す明るさに慣れてくると、夢の内容は徐々に薄れていく。
「……………」
ハーレムは深く息をつきながら起き上がった。
もう昼を回っている。
だから…というわけではないだろうが、ハーレムはこの上ない倦怠感を感じていた。
しっかり寝たはずだが…。
それでも夢を見ていたくらいなのだから、熟睡はしていなかったのだと思う。
「ふぅ…」
ベッドの上でタバコをふかす。
大きく煙を吐いて、その向こうに夢の続きを探した。
「……………」
厳密に言うと、あれはただの夢ではない。
幼少の頃、実際にあったことだ。
もう三十年以上も昔になるか…。
ハーレムはタバコを吸うのも忘れて、考えにふけった。
あの日のことは、はっきりと覚えている。
父が、亡くなった日…。
何も、変わったことはなかった。
すべてが。
すべてがいつも通りで。
艦から降りてくる時も、兄弟達を抱きしめる時も。
眠るように安らかな顔で。
父は、動かなくなった。
『死』に直面するには、あまりに幼すぎて。
きっと理解できていなかったのだと思う。
二人の兄達に『パーパどうしたの?』と何度も訊いていた。
「……………」
父は、もう、いないのだ。
それがわかるようになってから、時折夢を見るようになった。
…あの日の夢を。
微笑んで、抱きしめて。
その後、確かに言った。
『 』
ハーレムは実際イラつきながら、髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
…そこだけが。
そこだけが、どうしても思い出せない。
半分以上を吸わずして灰にしてしまったタバコを八つ当たり気味にもみ消して、ハーレムはベッドを出た。