赤の巻物

□夏休みB〜極寒の陣〜
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…うぅ…寒い…。

ロッドは雪山で遭難していた。

右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても、深く白い雪ばかり。

おまけに重い灰色の空からは、生まれたばかりの雪達が遠慮なく降りてきていた。

腕も足も寒さのため麻痺していて、指の先などはもう感覚はなかった。

歩くこともままならず、ロッドは雪の中に倒れ込んだ。

――あぁ…俺…ここで死ぬのかな…。

Gの言うとおり、ちゃんと服着てくればよかった…。

こんな半裸に近い、ギリギリの格好じゃなく…。

死ぬ前に一目…アーちゃんに会いたかったよぉ…。

アーちゃんなら優しいから、俺のこと暖めてくれるよね…。

マーカーじゃ燃やしそうだけど…。

あぁ…でも俺、今なら燃やされてもいいかも…。

だって…寒くて…寒くて…意識が…遠……。

「…ふぁックション!!」

…………。

ロッドは自分のクシャミで目を覚ました。

「…あれ…?」

起き上がれば、そこは布団の上だった。

さっきのは夢だったんだ…と思いながら、直接当たっている冷房の強風に身震いする。

肩を摩りながら冷房を切った。

自分の布団の隣では、ハーレムが寝ている。

…なんで俺達ここにいるんだ…?

ミネラルウォーターを飲みながら、脳と目を覚醒させ、薄暗い部屋を見回す。

自分達の布団とは大分離れたところに、2組の布団があった。

そっと近付いて様子を伺う。

シングルには熟睡している同僚、ダブルにはやはり熟睡している同僚と愛しい幼子。

師にくっついて、いい夢でも見ているのか。

幸せそうに眠っている。

自分の隣で眠っても、こんなに穏やかな顔をしてくれるだろうか。

こんなにまだ小さいのに。

まだまだ親の愛が必要な時期なのに。

ガンマ団に引き取られて、他人に育てられて。

10年後くらいには、もう戦場へ出ているのだろう。

…それでいいのか…?

それを、望むのか…?

…だとしたら。

俺はこの幼子に何をしてやれるんだ?

…何を、してやったらいいんだ…?

「…んぁ〜〜……」

ロッドが幼子の寝顔を見つめながら思案に沈んでいると、背後から唸り声が聞こえてきた。

振り向くと、気だるそうにハーレムが起きていた。

「おはようございます、隊長」

幼子を起こさないよう、小声で話す。

「お…サンキュ…」

ハーレムはロッドからミネラルウォーターを受け取って、一気に飲んだ。

暫くボーッとしてから口を開く。

「…なんで俺達ここにいるんだ?」

確かサウナに入っていたはずなのに。

サウナを出て、部屋に戻ってきた記憶は、全くない。

2人して同じような表情で顔を見合わせていると、静かに響く声がした。

「私とGでここまで運びました」

見ればマーカーが起き上がっていた。

弟子を起こさないように、そっと布団から出る。

「…アラシヤマが発見しなかったら…今頃はミイラにでもなっていたでしょう」

私の弟子にあんなに心配させて…!

本来ならば消し炭にするか、針で指先の1つも動かせないようにしてやるところだが。

相手は隊長だし、動かないロッドを見て、弟子がまた心配しても困るので、2人を冷たく睨むだけにしておいた。
 
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