白の巻物
□《『…好き?』》
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《イサミ+ちみソジ編》
嫌い。
嫌い。
大嫌い。
みんなが僕を嫌いだから。
僕もみんなが大嫌い。
嫌い。
嫌い。
大嫌い…。
縁側の隅でつまらなそうに座る幼子に、イサミは声をかけた。
「ソージ、いい天気だぞ、出かけんか?」
「…出かけない」
初めて出会った時と、同じ顔をしている。
寂しくて辛くて悲しくて仕方がないのに、泣くのを必死に我慢している…そんな顔。
ここ何ヶ月かはしなくなっていたのに。
きっと夢でも見て、気持ちが沈んでいるのだろう。
そう思ったイサミはソージの体を軽々と持ち上げ、肩車をしてやった。
「ほうら、高くて気持ちいいだろう?」
「やだやだッこれ嫌い!下ろしてッ!」
「なんだ、ソージは肩車が嫌いなのか?」
頭の上で暴れるので、脇を抱えて下ろしてやる。
抱えたまま顔の位置を同じにして覗き込むと、口をへの字にしてうつむいたまま言った。
「嫌い…みんな、嫌い」
「みんな嫌い?どうして?」
「だって…みんな僕を閉じ込めて一人ぼっちにしたもん。みんな僕を嫌いなんだもん。だから僕もみんな大嫌いだ!」
こんな幼子が、苦しそうに吐き捨てて言う。
イサミの胸は痛んだ。
「ソージ、上を見てごらん?大きくて青い空が広がっているだろう?もう誰もソージを閉じ込めたりはしないぞ?それに…」
「あッ…」
イサミはもう一度肩車した。
「わしはソージが大好きだぞ!」
「大好き…?」
落ちないように、しっかりと両足を持っててくれる。
その大きな両手の温かさ。
見上げればゆったりと白い雲が流れていき、その風が掴まる頭の髪をも微かに動かした。
「いい天気だなぁ…」
「…そうだね…」
自分だけに話しかけてくれる。
自分だけと過ごしてくれる。
みんな嫌いだと言ったけれど、本当は…。
本当は…ね…。
近藤さんのことは大好きだよ。
それはこの肩車でのお散歩が終わったら言うね。
近藤さんだけに…。
ソージの顔に微笑みが戻ったことを、髪を掴む小さな両手から知ったイサミだった…。