白の巻物
□《二人乗り》
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《イサミ+ちみソジ編》
ま〜た何かおかしなこと始めやがった…。
庭にある大木の下にいるイサミを見て、トシゾーはそう思った。
縄に、釘に、板に、木槌。
何を始めるつもりか知らないが、傍らにソージがいるところを見ると、あの幼子のためなのだろう。
「近藤さん、ケガすんなよ!」
そう声をかけてやると、笑って手を振り返した。
「何作るの?」
「ん?ブランコだよ」
「…ブランコ…?」
不思議そうな顔をしながらも、イサミのやることをじっと見ていた。
大して難しそうなことでもない。
一番太い枝に縄をくくりつけ、垂らす。
垂らした先端を板に巻きつけ、外れないよう釘で固定する。
「ほら、できたぞ!」
「…?」
完成した形を見ても、やはりソージは首を傾げていた。
ブランコを知らんのか…。
ソージの境遇を考えれば、それも仕方ないことかもしれない…とイサミは理解した。
「ソージ、ここへ座ってごらん」
イサミの大きな手が板を指すので、言われるままに座ってみる。
「…?動かないよ?」
「両手でしっかりと縄を持ってるんだぞ」
ソージの手を取り、縄を掴ませる。
念を押すように小さな手をギュッと包んでから、イサミは板に足をかけた。
「うわ…ッ?」
急に後ろに倒れるように揺れたので、ソージは肩をすくませた。
「手を離すんじゃないぞ」
イサミはソージの背後に立って、ブランコをこぎ始めた。
「う…うわゎ…ッ!?」
突然の浮遊感。
ソージは強くきつく縄を握りしめた。
前へ行ったり、後ろへ行ったり。
まるで波に揺られているような感覚に、あの日の記憶がよみがえり、胸がしめつけられる。
けれど…。
「怖いか?」
「う…ううん」
頭の上でした優しい声に、落ち着きを取り戻した。
緩やかな風の中で、空が近付いてくる。
「うわぁ…」
空に吸い込まれて、一瞬止まっているような感じがした。
「近藤さん、すごいよ、今足の下に空があったよ!」
目を大きく開け、見上げて笑う幼子に、イサミも微笑み返す。
「おぉ、空を飛んでいるようだろ?」
「うん、すごいね!」
足下で無邪気に笑う。
…いつもそうして笑っていろ。
もう、何も怖がるな。
大きくなるまでこうして、後ろで支えていってやるから。
そんな思いを込めて、イサミは大きくブランコをこぐ。
「うわぁ…!すごいすごい!!」
空が、雲が、迫ってくる。
でも、もう、怖くない。
強く風を切っても。
飛べるはずのない体が空に浮かんでも。
大きな愛が後ろにあると知ったから。
ここで大きくなっていいんだと確信したから。
イサミとソージは飽きることなくブランコに乗っていた。
大人と子供の同じような笑い声が、陽が暮れるまで響いていた…。