白の巻物

□《二人乗り》
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《ミヤトリ編》


ちょっと買い物…というつもりで出てきたのだが。

風通しの良い橋の上を通過している時に、唐突に言われた。

「なぁ…トットリ…川さ下ってったら海さ出るって…本当だべか?」

「え?」

ミヤギがこぐ自転車の後ろに乗っていたトットリは、思わず川を見た。

光る川面は、静かに確かに流れている。

「こないだ授業で言ってたから…きっと本当だっちゃよ」

「んだよなぁ…」

ミヤギも川面を眺めながら呟いた。

その横顔は何かを考えている。

…ように見える。

「トットリ、行ってみるべ!」

「え?」

「この川さ下ってったら本当に海さ行けるか…行ってみるべ!!」

「え―――!?」

このまま…自転車で!?

そんなトットリの思いもよそに、ミヤギは突然ハンドルを切り、川沿いを走り出した。

川の流れと同じ速さで…というわけにはいかないが、それでも軽快に自転車は進んでいた。

「ミヤギ君…髪、伸びたっちゃね〜」

風になびく陽の光のような髪を見て言う。

「おぉ、ちっとは強そうに見えるべ〜?」

「だっちゃ!」

士官学校に入って一年、徐々に張りつめた生活になっていった。

そんな日常から少し離れて、こんなにものどかな時間を過ごしている。

すれ違っていく人々は、まさか自分達が『殺し屋』として訓練しているなんて思いもしないのだろう。

そしてそんな自分達が、海へ向かっているなんて夢にも思わないのだろう。

友人の話やら、幼い頃の話やら。

たわいもない会話をしながら、ふとそう思った。

「ミヤギ君、交代するっちゃ」

「ん?そっか〜助かるべ〜」

汗だくになったミヤギは、後ろに乗って一息ついていた。

「ふぃ〜〜…」

ミヤギ君が頑張ってくれた分、僕も頑張らなくちゃ!

負けないように。

役に立てるように。

「あんまり無理さすんな?」

「大丈夫だっちゃ!」

無理というなら自転車で、しかも二人乗りで、海を目指そうとする方が無理だろう。

けれど二人は引き返そうなどとは露ほどにも思っていなかった。

大して休みもせずに、お互いのことを話したり、お互いを思いやったり。

何気ない二人のための時間の中で、目的は果たせると信じていたのだ。

そして実際にトットリが気付いた。

「…風の匂いが変わったっちゃ」

「ん?」

土の熱気と草いきれの中に、かすかに涼しい風が紛れている。

トットリは後ろから前方に目を凝らした。

「ミヤギ君!」

「おぉッ!」

トットリが指す方向には、川面とは違う輝きの水面があった。

「本当に着いたべ!」

「本当に着いたっちゃ!」

だいぶ陽が傾いた浜辺に自転車を投げ出し、服のまま海へ入る。

「すげぇべな〜!」

「すごいっちゃ〜!」

何がすごいのかわからなかったが。

一つの目標に向かって、二人で協力し合えたことが嬉しくて、楽しくて。

ただそれだけのことで思いきり笑って、思いきりはしゃいだ。

「トットリ〜、帰るのは明日にするべ」

「だっちゃね」

野宿なら実習で慣れている。

二人は静かに海を見つめた。

波の子守歌、星のカーテン、砂浜のベッド。

大きな大きな自然の力が、二人の成長に少しだけ力を添える。

助け合って生きていくように…と。

笑い合って生きていくように…と。

いつまでも、今の気持ちのままで…。

 
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