白の巻物
□《二人乗り》
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《コアラ編》
「アラシヤマぁ、出かけようや」
朝の数時間をまったりと過ごしていると、突然コージが言った。
久々に二人一緒の休日。
特に何の予定もなかったが、このままのんびりと過ごしていたかったアラシヤマは、少々嫌な顔をしてコージを見た。
「え?」
「えぇ天気じゃし、このまま部屋におってもつまらんじゃろ?わしが運転するけぇ、出かけようや」
「ちょ…ちょっと…」
ソファーに座っていたアラシヤマの手を引っ張って、強引に部屋を出た。
始めは戸惑っていたアラシヤマだったが、駐車場に行くまでの間に感じる風や空の色で、出かけてもいいか…という気持ちになっていた。
車で出かけるのも久しぶりやしなぁ…。
そう思っていたアラシヤマに、コージが何かを放り投げた。
「ほれ」
「…?」
咄嗟に受け取って、すぐに疑問を口にした。
「何どす、これ…?」
「ヘルメットっちゅうもんじゃ。知らんのか?」
早々とヘルメットを被りながらコージはあっさりと言う。
「ヘルメットは知ってますわ!何でこれ被らなアカンの?」
「バイクに乗るからに決まっちょるじゃろ」
「そやかて運転て…」
「バイクもしばらく乗っちょらんけぇ、乗ってやらんと可哀想じゃろ。ほれ、早う着けぇ」
「ちょっ…」
半ば無理矢理スッポリと被せて、エンジンをかけた。
「……………」
コージが強引なのは、今に始まったことではない。
アラシヤマは諦めて、バイクの後ろに乗った。
バイクというのは運転するよりも、後ろに乗っている方が大変なのだ。
ましてやコージの体に合わせてある大きなバイクではなおさら…。
「しっかり掴まっちょれよ」
そう言ってバイクを走らせる。
掴まっていろと言われても…。
アラシヤマは遠慮がちにコージのシャツを掴んでいた。
始めはゆっくりだったスピードも、街を抜けるにつれ徐々に速くなっていく。
「ちょっ…ちょっと、コージはん!」
信号で止まると同時に、アラシヤマは訴えた。
「そないスピード出さんといてや!振り落とされそうやさかい!」
「じゃけぇ、しっかり掴まっちょれと言うたじゃろ!」
そう言うとアラシヤマの両手を取り、自分の腰へと回させた。
「な…ッ…」
「飛ばすぞ!」
反論しようとした時に、いきなりの加速。
アラシヤマはコージに密着したままの状態を強いられてしまった。
「……………」
これはこれで恥ずかしいのだが。
…この上なく安心するのは、何故だろう…。
コージはアラシヤマが自ら体を寄せてきたのを感じて、思わず頬を緩めた。
二人きりの空間で出かけられる車も好きだが。
こうして体を預けてくれるから、バイクも好きだ。
ましてや普段は人を頼るということをしない恋人だから、なおさら。
今、この瞬間に頼れるのは自分しかいない…と。
そして確実に自分は頼られている…と。
感じることができるから。
…出かけようと言ったものの、実は行き先があるわけではなかった。
けれど、この状態が続くなら。
思いきり遠くへ行くのもいい。
エンジンの音、風を切る音、タイヤが懸命に動く音。
その中でもハッキリと聞こえる、お互いの鼓動。
それを感じているのは、他の誰でもない、自分達二人だけ…。
そのバイクは、空を飛ぶ気持ちのように、どこまでも走っていった…。