白の巻物

□飴湯様とのコラボ拍手
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《異文化交流》



「……………」

エプロンが、ない。

真っ白で肌触りの良い生地にフリルをあしらった、お気に入りのエプロンだった。

「……………」

これだけ探してもないのだから、隊長がリキッドの所へ持っていったか、ロッドが肌に直接着てマーカーに燃やされてしまったか、のどちらかだろう。

また作るしかなさそうだ…。

Gは多少なりとも落胆して、外へ出た。

朝食用のスモークハムと晩酌用のスモークチーズを作る準備を始める。

以前室内で作ったら『外でやれ』とマーカーに冷たく言われてしまった。

「……………」

「おや、おはようございます」

なんとなく自分は苦労しているのではないか…と思っていると、不意に声をかけられた。

「………おはようございます…」

隣へとやってきた心戦組の局長という肩書きを持っているらしいが。

よく食事の支度をしている…。

この人の方が俺より苦労しているのではないだろうか。

「朝食の支度ですかな?しかしそれでは服が汚れてしまいますぞ」

『エプロンをなくした』と言う前に、イサミは『ちょっと待ってて下され』と言って、家の中へと入っていった。

「………?」

Gがその場に立ち尽くしていると、すぐにイサミは白い物を手に戻ってきた。

「これを着て下され」

「………?」

広げると、今イサミが着ている物と同じ形をしている。

「……………」

「割烹着というものでしてな、袖を通して、ここに頭を…そうそう、なかなかお似合いですぞ」

私より似合っているかもしれませんな、と言ってイサミは笑った。

「……………」

初めて着る異国の服。

これは…なかなか…着心地が良い…。

Gはエプロンがなくなったことを忘れてしまうほど、感激していた。

「ところで…それは燻製器ですかな?もしよければこの鮭も入れてもらえませんかな?」

割烹着のお礼に、とGは快く受け入れた。

桜のチップを入れると良い、だの。

鮭はソージとトシの好物だ、だの。

作業をしながらイサミは一方的にしゃべっている。

けれど、悪い気はしないのは、…この割烹着のせいだろうか。

「そうだ、今日は皆で一緒に食事をしませんかな?賑やかで楽しくなりますぞ」

それはいい、とGは大きく頷いた。

金さえもらえれば何でもする人斬り集団と、手加減というものを知らない元世界最強の破壊屋が、食事を共にするなど…到底考えられない。

いや、考えられなかった。

ここへ来るまでは。

『この島は人を変える』

あの時マーカーが言っていた意味が、今わかった気がした。

「さて、そろそろ起こしてきますかな」

準備が整ったところで、イサミが言った。

その笑顔に頷いて返事をして、Gとイサミは家へと入っていく。

ふと見上げた空には割烹着と同じ色の雲が、ゆったりと浮かんでいた。

今日も、爽やかで賑やかな一日が始まる…。
 
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