白の巻物

□《その後とその前の間》
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《マーカー編》


もしかしたら新総帥も、毎日ここへ来ていたのではないだろうか。

ふとそんな思いがよぎった。

自分と、同じように…。

マーカーは眠るアラシヤマの顔を見つめた。

顔の半分は包帯で覆われている。

いつもは髪で覆われているのだから、同じように思われるが。

包帯の方がやはり痛々しい印象を受けた。

…何が。

…あの島の何が、お前を変えた?

禁じていた技を使ってまで。

守ろうとしたものは、守りたかったものは、一体何だ…?

「馬鹿弟子が…」

私は、あの時。

お前を私達の元へ帰すために、待っていた。

そして今も、待っている。

私だけではない。

隊長もロッドもGも、皆…。

幼い頃にはよく触れていた頬に、そっと指を滑らせる。

変わっていないように見えて、…変わったのだな、お前は…。

静かな部屋で、指だけが動く。

その時、閉じていた唇が微かに動いた。

「…し…しょ…?」

「―――!」

気管の中まで火傷を負ってしまったため、声がかすれてはいるが。

確かに自分を呼んだ。

「アラシヤマ…!」

手のひらで頬に触れ、顔を覗き込んで名を呼ぶ。

するとゆっくりと目を開けながら、もう一度かすれた声で言った。

「ぉし…しょ…は…」

気が付いたのか…!

この時マーカーは、ドクターを呼ぶよりも、アラシヤマと視線を合わせるのが先だと思った。

「アラシヤマ…」

確認するように名を呼ぶと、瞳だけがゆっくりと動いて、自分を映した。

光が眩しいのか、それとも微笑んだのか。

少しだけ目を細める。

「…お…し…しょ…」

「無理にしゃべるな」

唇に指先を当てて、言葉を制する。

「目覚めるのが…少し遅かったな」

マーカーは穏やかに話し始めた。

「私達特戦部隊は今日…ガンマ団を離れることになった」

「…………」

「隊長もロッドもGも皆…お前が目覚めるのを待っていたが…まだ絶対安静のようだからな…連れて行くことはできん」

本当は連れ戻すために、ここへ来ていたのだが。

「ほな…わて、は…も…う…」

アラシヤマの瞳が、悲しげに揺れる。

「私の名を汚さんようにガンマ団に尽くせ」

「…………」

揺れる瞳をしっかりと見つめて、マーカーは言った。

「決して忘れるな、アラシヤマ。私がガンマ団を離れても、お前がどこにいても…お前は私の弟子だ」

アラシヤマの目が大きく見開かれる。

「お前は私に傷をつけたが…命懸けでなければ傷もつけられんとは情けない話だ。私を越えることができるまで…お前は弟子のままだ」

「し…しょ…、おぉ…き、に…」

涙が一粒、ポロリとこぼれた。

それを拭いながらマーカーは言った。

「私はもう行くが…早く体を治せ、いいな?」

「…へぇ…」

濡れた瞳が強く頷いたのを見届けて、マーカーはベッドを離れた。

やはり…弟子の涙には弱い。

胸が苦しくなって…名さえわからない感情に支配される。

マーカーは一度も振り返ることなく、後ろ姿のまま、ゆっくりとドアを閉めた…。
 
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