白の巻物

□《その後とその前の間》
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《シンタロー編》


きっとまだ眠っているのだろうが、…静かにドアを開けた。

まるで時間が止まっているかのような、白い部屋。

壁際にある無機質な器械の、事務的で規則的な音が、時間は動いていることを教えてくれていた。

そして、その白いベッドで眠る『親友』が、生きているということも…。

なるべく足音を立てないようにベッドに歩み寄ったシンタローは、複雑な思いで横たわる人物を見下ろした。

一度は『刺客』として自分の命を狙いに来た男が、あの島で変わっていった。

『守る』なんて言葉など知らないかのように、喜々として破壊と殺戮だけを繰り返してきた男が。

あの島を、そしてこの自分を、『守る』ために。

自らの命を、…燃やした…。

かろうじて一命は取り留めたものの、全身と気管の一部にまで火傷を負い、意識不明の重体に陥ってしまった。

あれから三週間…こうして毎日来ているが、…目を覚ます気配はない。

「…アラシヤマ…」

包帯に巻かれていない閉じた右目にそっと触れながら、呟いた。

最愛の弟も、あの島で力を使い果たして、眠りについた。

疲労のために眠ってしまったのだから、いつかは目を覚ますだろう。

けれど…。

…こいつはもしかしたら、目を覚まさないかもしれない…。

そんな恐ろしい考えが、脳裏をかすめる。

…頼むから。

頼むから、目を覚ましてくれ。

この俺を『総帥の息子』ではなく『シンタロー』として見てくれた、初めての『親友』。

自分で蒔いた種とはいえ、犠牲にしてしまったものは、想像以上に大きかった。

その責任を『総帥』として取らなければ。

あの島で運命の出会いをした者達に、申し訳が立たない。

もちろん、お前にも…。

「…アラシヤマ…」

もう一度呟いて、閉じた唇に指先で触れる。

早く…。

早く前のように、名前を呼んでくれ…、この唇で…。

視界が滲みそうになった時、背後でドアが開いた。

「…新総帥…失礼いたしました」

「いいよ、入れよ」

自分と目が合うと、ドアを閉めて出て行こうとしたので、すぐに引き止めた。

「俺、もう行くから」

「申し訳ありません…失礼いたします」

丁寧すぎるほどに一礼をして入ってくる間に、涙を押し戻す。

「そろそろ…行くんだろ、叔父貴と」

「…はい」

「こいつは…連れて行くのか?」

二人同時に横たわるアラシヤマを見る。

「隊長は連れてこいと仰いましたが…ドクターの話では絶対安静だそうなので…」

「…そうか…」

置いていくのか。

…こんな時に、何と言っていいのかわからない。

『弟子は任せろ』じゃおかしいし、『こんな状態にしちまって悪かった』もおかしい。

しかしアラシヤマのことを考えたら。

「…たまには連絡取ってやってくれよな…ガンマ団を離れても…アンタが師匠ってことは変わらねぇからな」

そう言ってシンタローはマーカーの肩を叩き、病室から出て行った。

ドアから消えるその背中は…。

何故か謝っているように見えた…。
 
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