last night

□第三十九夜
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カイを病院へ送ると、一足先に到着していたお父さんに出会った。

私の体調が大丈夫だということを改めて確認すると、今夜はカイに付いているから、皆と一緒にいるように念を押された。

もしかしたらお父さんも、この形容しがたい違和感に気付いているのかもしれない。

勿論、口にはしないけれど。



「なぁ、カイの父ちゃん。もしもカイが目ぇ覚ましたらすぐに教えてくれよな。」

「ああ、わかっているさ。・・・それよりタカオ君。君に一つ、お願いをしていいかな。」

「え?なんだよ急に。」

そう言うや否や、お父さんはタカオだけを廊下へ連れ出してしまった。

「・・・何なんだ、一体。」

「明日のバトルのことじゃないノ?」

「そういえばカイのお父さんもHMSの開発に携わっていたものね。何かいい作戦でも聞いてるのかしら。」

皆がそんな話をしている中、私は改めてカイに近付いた。

相変わらず一定の呼吸で深く眠っているカイ。

きっとまだ暫くは目を覚まさないことだろう。

もしかしたら、明日だって・・・。

「・・・・・・。」

・・・ううん、例えそうだったとしても、大丈夫。

貴方が繋いでくれた未来の灯火を、決して消したりなんかしないから。



程なくしてタカオとお父さんが帰って来て、カイの病室を出た私達は、その足でユーリの病室へ向かった。



「おお、皆さん・・・!!」

いいタイミングで大転寺会長もそこにいたので、私達は改めてBEGAとの勝負の結果を伝え、明日改めて戦うことを話した。

流石、会長は大人だ。

本当は誰よりも不安で仕方がないはずなのに、落ち着いて話を聞いてくれる。

「・・・今の私には、皆さんを応援することしかできません。・・・よろしくお願いいたします。」

「ああ、任せてくれよおっちゃん。」

「会長が作り上げて来たベイを、私達の未来を守るために、明日は全力で挑みます・・・!!」



その後、未だに目を覚まさないカイを案じつつも、私は皆と一緒に木ノ宮家への帰路に着くのだった。













「・・・・・・どうして、僕が・・・・・・。」

BEGAのとある一室で籠るブルックリンは、カイとの一戦を交えた後、周りの出来事や様子になど目もくれず、ひたすらブツブツと呟いている。

そんな彼に、ガーランドは何もすることが出来ず、疾風のジンこと木ノ宮仁とともにヴォルコフの下へ来ていた。

「さて、君には些か失望したよ、木ノ宮コーチ。できればこれも観客サービスの一貫と思いたいが・・・事態は至って深刻だ。」

同じ引き分けでも、試合一日目は圧倒的にBEGAが有利であった。

それなのに、二日目で追い付かれた今となっては印象が極めて悪い。

そう語るヴォルコフは、以前のような余裕が無くなっているように見えたが、ガーランドはそれだけでない違和感を感じていた。

何故、この人はそうまでしてBBAを落とそうとするのか。

先程バトルをしたガーランドが肌で感じ取った、本当の自分が戦うベイの楽しさ、素晴らしさ。

それは、木ノ宮タカオと戦わなければ気付けなかったかもしれないバトルの産物であった。

ガーランドだけではない。

ミンミンも、モーゼスやミステル・・・・・・仲間達の目が、BBAとの一戦で明らかに変わったことに、この人は気付いていないというのだろうか。

いや、或いは気付いているからこそ、このように焦っているのか・・・。

「・・・・・・。」

そういえば、隣にいる木ノ宮コーチ、そして、あの部屋へ置いてきたブルックリンはどうなのだろう。

ダンッ!!

ヴォルコフの机を叩く音で、空気が一層張り詰め、ガーランドは我に返る。

「こうなった以上、何がなんでも勝たねばならん。それも一方的に、あの忌々しいBBAの亡霊どもを叩き潰し、今度こそBEGAの力を世間の馬鹿どもに思い知らせるのだ・・・!!そして、土崎セツナ・・・あの娘の力を何としてでも手に入れてくれよう・・・!!」

「はっ。」

「しかし、ヴォルコフ会長、ただ力を見せつけて勝つだけが本当のベイバトルでしょうか。」

思わずガーランドは口を挟んだ。

「何?」

「観客が望むものは、熱きベイ魂のぶつかり合いです。ブレーダー同士が己の全てを掛けて戦う。だからベイバトルは熱く、楽しくなるのです。」

「何が言いたい。」

「はい、その為にはまず、互いを認め合うことが必要かと・・・」

「認める?楽しい、だと・・・?フハハハハハハハ!!・・・・・・木ノ宮にやられて腑抜けになったか・・・寝言をほざくなこの負け犬がぁっ!!」

「!!」

書類を投げつけられ、ガーランドは表情にこそ出さないものの、ヴォルコフの真意を知ることになる。

この期に及んで綺麗事は通用しない、故に勝つために手段は選ばない。

そう、端からヴォルコフは、勝つこと以外に目的など無かったのだ。

散々自分達へ聞かせてきた理想論とは全く違ったその考えに、ガーランドは静かな焦りを感じた。

「・・・木ノ宮コーチ。君のやることはわかっているな?」

「はっ、ブルックリンですね。」

当たり前のように頷く木ノ宮コーチに、ガーランドはぎょっとする。

部屋に置いてきた彼は、最早いつもの面影はなく、危険以外の何物でもなかった。

それなのに・・・あのブルックリンを明日の試合へ出そうというのか!?

「そんな・・・、っ!! 木ノ宮コーチ!?」

そうこうしている間にコーチは外へ出てしまう。

慌ててその背を追いかけ、静かになった部屋で、ヴォルコフは待機していた部下達にその不気味な笑みを向けた。



「・・・さて。その間に念には念を入れて、できることはやっておかねばな。モーゼスやミンミン、ミステルも呼び戻してもらおう。・・・・・・最早勝てればいいのだからな!!」
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