last night
□第三十七夜
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試合からどれだけの時間が経ったのだろう。
ボロボロになったカイに対し、ブルックリンは相変わらず涼しい顔をしている。
「今の攻撃もまぁまぁよかったよ。・・・でも、」
「っ!?うわぁぁぁあああああっ!!」
「このくらいしてくれなきゃ。」
まるで弄ぶかのようにドランザーへと攻撃を仕掛けるゼウス。
あまりにも一方的な戦術・・・いや、彼にとってはそんなもの、最初から無いのかもしれないけれど、その有り様は例えるならそう・・・、
「神の遊戯・・・。」
そうポツリと呟いた私の言葉を切っ掛けに、不意にマックスとレイが立ち上がった。
「レイ?」
「師匠!!」
「止めるな。」
「ソーリー・・・でもボク達だって、これ以上は見てられないネ・・・!!」
ハッとして重たい脚を動かそうとした私だったが、それよりも先に彼等を止めてくれたのは、タカオだった。
「邪魔するなタカオ!!」
「カイはもう充分戦ったネ!!」
思わず息を飲んだが、タカオは黙って首を横に振る。
彼と同様に、目頭がじわりと熱くなるのを感じながら、私は震える足を地面にそっと着けた。
「お前はこれ以上カイのあんな姿を見てられるのか!?」
「タカオ、なんとか言ったらどうネ!?」
「タカオ!お前っ・・・!!」
「平気なわけないよ。」
「セツナ・・・、」
後から向かった私は、タカオのすぐ側に並んで、二人を見た。
「セツナちゃん・・・タカオ・・・。」
「頼むよ、カイと約束したんだ・・・!!ここで俺に、あいつとの約束を破らせないでくれよ・・・!!」
肩を震わせて懇願するタカオに、レイもマックスもハッとした表情を浮かべる。
ふと、レイの握られていた拳が解けると同時に、ポタリと血が地面に滲みた。
レイもマックスも、ギリギリまで悩んでたんだ。
その上で、カイを失いたくなくて、こんな風に立ち上がったんだ・・・。
「・・・・・・レイ、マックス。ありがとう・・・・・・。でも、止めないで。私がカイでも、絶対に嫌だから・・・。」
二人の気持ち、痛いほどわかるよ。
でも、それ以上に、カイの勝ちたいという気持ちがわかるから・・・。
「・・・っ、すまない。タカオ、セツナも。」
「そうネ・・・二人とも、ボク達が悪かった・・・。誰よりも辛いのは、ボク達じゃなかった。」
「信じよう、カイを。」
二人の言葉に安心して、思わず溢れた涙を拭うと、改めてカイのいるスタジアムへと目を向けた。
「・・・・・・っ、カイィィィッ!!」
「ふふっ、よく頑張ったよ。ここまで気持ちがいいバトルは初めてだったな。・・・ヴィジョンで見えていたとはいえね。」
今にも倒れそうなその背中を抱き締めたい。
隣で一緒に戦いたい。
嘗て、これ程までにもどかしくなったことなんてなかった。
お願い・・・負けないで、カイ・・・!!
「正直、君が羨ましいよ。こんな独楽遊びなんかにこんなに熱くなれるなんて。」
「ーっ・・・!!ブルックリン・・・!!」
「ごめんごめん、気に障った?バカにしたつもりはないよ。・・・でも、誰も僕には勝てない。」
"そうだよね?"
「っひ・・・・・・!!」
自分の喉から上がった小さな悲鳴に、自分で驚く。
ブルックリンのたった一言で、私の脳裏には、倒れたカイ、そして砕け散ったドランザーの映像が浮かんだ。
・・・・・・これが、ブルックリンのヴィジョンだというの・・・!?
「っ・・・!!」
気付くと、目の前には真っ黒な沼が拡がっている。
これ、またあの技・・・!?
「・・・・・・さよなら♪」
さっきまでの残酷な表情とはうって代わり、全てを吹っ切ったようなブルックリンは、僅かに口角を持ち上げて、こちらの心の準備なんて気にも留めず、あの言葉を紡いだ。
「・・・・・・キングオブ・ダークネス・・・・・・。」
「そんなこと・・・絶対にさせない!!」
『当たり前だっっっっ!!』
ただ無我夢中で、目の前を覆う真っ暗な闇へと手を伸ばした。
そして、微かに触れた温もりを透かさず掴み、そのまま力任せに引き上げる。
「カイ!!!」
「っ・・・・・・、セツナ・・・・・・!!」
引き上げると同時に、私はその背中に腕を回し、きつく抱き締めた。
「捕まえた。」
呆気に取られるその唇に口付けを交わし、両頬をしっかりと挟む。
「忘れないで、カイ。私は・・・私達はここにいるよ。」
今度こそ消えない。
貴方との未来は、もうすぐそこに来ているのだから。
「皆で勝つよ。」
決して孤独じゃない。
一人なんかじゃない。
それを何よりわかってほしくて、再び唇に触れれば、それに応えるかのように、大きな手が肩を支え、二人の距離をより近付けた。
「・・・・・・いくよ、カイ!!」