last night

□第三十七夜
1ページ/6ページ

試合からどれだけの時間が経ったのだろう。

ボロボロになったカイに対し、ブルックリンは相変わらず涼しい顔をしている。



「今の攻撃もまぁまぁよかったよ。・・・でも、」

「っ!?うわぁぁぁあああああっ!!」

「このくらいしてくれなきゃ。」



まるで弄ぶかのようにドランザーへと攻撃を仕掛けるゼウス。

あまりにも一方的な戦術・・・いや、彼にとってはそんなもの、最初から無いのかもしれないけれど、その有り様は例えるならそう・・・、



「神の遊戯・・・。」



そうポツリと呟いた私の言葉を切っ掛けに、不意にマックスとレイが立ち上がった。

「レイ?」

「師匠!!」

「止めるな。」

「ソーリー・・・でもボク達だって、これ以上は見てられないネ・・・!!」

ハッとして重たい脚を動かそうとした私だったが、それよりも先に彼等を止めてくれたのは、タカオだった。

「邪魔するなタカオ!!」

「カイはもう充分戦ったネ!!」

思わず息を飲んだが、タカオは黙って首を横に振る。

彼と同様に、目頭がじわりと熱くなるのを感じながら、私は震える足を地面にそっと着けた。



「お前はこれ以上カイのあんな姿を見てられるのか!?」

「タカオ、なんとか言ったらどうネ!?」

「タカオ!お前っ・・・!!」

「平気なわけないよ。」

「セツナ・・・、」

後から向かった私は、タカオのすぐ側に並んで、二人を見た。

「セツナちゃん・・・タカオ・・・。」

「頼むよ、カイと約束したんだ・・・!!ここで俺に、あいつとの約束を破らせないでくれよ・・・!!」

肩を震わせて懇願するタカオに、レイもマックスもハッとした表情を浮かべる。

ふと、レイの握られていた拳が解けると同時に、ポタリと血が地面に滲みた。

レイもマックスも、ギリギリまで悩んでたんだ。

その上で、カイを失いたくなくて、こんな風に立ち上がったんだ・・・。

「・・・・・・レイ、マックス。ありがとう・・・・・・。でも、止めないで。私がカイでも、絶対に嫌だから・・・。」

二人の気持ち、痛いほどわかるよ。

でも、それ以上に、カイの勝ちたいという気持ちがわかるから・・・。

「・・・っ、すまない。タカオ、セツナも。」

「そうネ・・・二人とも、ボク達が悪かった・・・。誰よりも辛いのは、ボク達じゃなかった。」

「信じよう、カイを。」



二人の言葉に安心して、思わず溢れた涙を拭うと、改めてカイのいるスタジアムへと目を向けた。













「・・・・・・っ、カイィィィッ!!」













「ふふっ、よく頑張ったよ。ここまで気持ちがいいバトルは初めてだったな。・・・ヴィジョンで見えていたとはいえね。」



今にも倒れそうなその背中を抱き締めたい。

隣で一緒に戦いたい。

嘗て、これ程までにもどかしくなったことなんてなかった。



お願い・・・負けないで、カイ・・・!!











「正直、君が羨ましいよ。こんな独楽遊びなんかにこんなに熱くなれるなんて。」

「ーっ・・・!!ブルックリン・・・!!」

「ごめんごめん、気に障った?バカにしたつもりはないよ。・・・でも、誰も僕には勝てない。」

"そうだよね?"



「っひ・・・・・・!!」



自分の喉から上がった小さな悲鳴に、自分で驚く。

ブルックリンのたった一言で、私の脳裏には、倒れたカイ、そして砕け散ったドランザーの映像が浮かんだ。

・・・・・・これが、ブルックリンのヴィジョンだというの・・・!?



「っ・・・!!」



気付くと、目の前には真っ黒な沼が拡がっている。

これ、またあの技・・・!?



「・・・・・・さよなら♪」

さっきまでの残酷な表情とはうって代わり、全てを吹っ切ったようなブルックリンは、僅かに口角を持ち上げて、こちらの心の準備なんて気にも留めず、あの言葉を紡いだ。



「・・・・・・キングオブ・ダークネス・・・・・・。」















































































「そんなこと・・・絶対にさせない!!」

『当たり前だっっっっ!!』











ただ無我夢中で、目の前を覆う真っ暗な闇へと手を伸ばした。

そして、微かに触れた温もりを透かさず掴み、そのまま力任せに引き上げる。



「カイ!!!」













「っ・・・・・・、セツナ・・・・・・!!」

引き上げると同時に、私はその背中に腕を回し、きつく抱き締めた。

「捕まえた。」

呆気に取られるその唇に口付けを交わし、両頬をしっかりと挟む。

「忘れないで、カイ。私は・・・私達はここにいるよ。」

今度こそ消えない。

貴方との未来は、もうすぐそこに来ているのだから。

「皆で勝つよ。」

決して孤独じゃない。

一人なんかじゃない。



それを何よりわかってほしくて、再び唇に触れれば、それに応えるかのように、大きな手が肩を支え、二人の距離をより近付けた。









「・・・・・・いくよ、カイ!!」











次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ