last night
□第三十六夜
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「ハイリスク・・・ハイリタァァァァァン!!!!」
無我夢中で叫んだ矢先、身体から力が抜け、ガクリと頭を垂れる。
それでもなんとかふんばり、ドラキリューがスタジアムへ上手く着地したのを見届けて、一度体勢を立て直す。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・。」
「・・・・・・俺も知らないドラキリューの秘密とは言うものの、やはりその技の弱点は克服出来ていなかったか。」
「・・・・・・っ・・・。」
口を噤んだのは、言い返す言葉が見つからなかったからじゃない。
一見冷たく見えたお兄ちゃんの目に、安堵の光が見えた気がしたからだ。
「まだいけるな、セツナ。」
「・・・当然!」
思わず口角を上げてしまう私を、案の定お兄ちゃんは楽しそうに見つめている。
・・・・・・ああ、やっぱり気のせいなんかじゃない。
「いくよ!!」
「来い、セツナ!!!!」
こうしている間にも、一度ハイリスク・ハイリターンを使ったドラキリューは、どんどん私の体力を奪っていく。
それなのにぶつかり合うベイの音、弾け飛ぶパーツの欠片、背中を押す仲間達の声援、観客達の熱い視線、全てが私の心を突き動かす。
辛くて苦しい。
でも、どうしようもなく楽しいこの時間が愛しい。
過去へと変わっていく今、未来へ向かう私達の時代・・・。
ベイを通じて、私の世界はこんなにも広がった。
「・・・・・・・・・ありがとう。」
一言呟き、私は改めてお兄ちゃんを見据えた。
あんなに余裕に見えた筈のお兄ちゃんの肩が、上下に動いていることに気づく。
ああ、そうか・・・。
やっぱりお兄ちゃんも苦しいんだ。
でもだからこそ、ここで頑張らなくていつ頑張るんだ!!
「互いに、限界が近いようだな。」
「みたいだね・・・・・・。」
一瞬だけベイに目を配れば、即座に私を呼ぶ声が、覚悟を固めてくれる。
『セツナ。』
「うん。・・・・・・いくよ、"キリ"。」
「なっ・・・!!?」
ギュッと握りしめた掌に、血が滲むほど爪を食い込ませた。
そうでもしないと、この決意が揺らいでしまったかもしれない。
そんな心を羽交い締めにして、私は震える声で叫んだ。
「ハイリスク・ハイリターン!!!!」
「なんと!?セツナ選手、禁断の切り札を一試合で二度も使ったぞぉ!?果たして体力は持つのか!?」
「えええええええええ!!!?」
「おい、嘘だろ!?あの技を二度も使うなんて!!」
Gレボリューションズの応援席は勿論、観客席にも動揺が広がる。
「セツナちゃん!!無茶しないでー!!」
セツナを止めたい気持ちの抑えきれないタカオだったが、隣で今にも駆け出しそうなヒロミに気づき、その肩を押さえる。
「ダメだヒロミ!!今セツナを止めたら、本当にすべてが終わっちまう!!」
「でも!!」
そんな二人の側にいたカイが、視線を変えずに口を開く。
「・・・・・・二年前、ボーグとの決戦のときもそうだった。初戦で俺が勝ち星を取れなかった分を、あいつは命を掛けて取り戻し、木ノ宮へと繋げた。」
「え・・・っ。」
「・・・俺が惚れたあいつは、そういう女だ。」
今となっては過ぎたことだが、あのときセツナは瀕死の怪我を負い、挙げ句、ドラキリューまで失い、やむを得ず元の世界へと帰った。
その姿を見て、確かにあのときカイは、今度こそ見失わないように、守ると誓った筈だったのだ。
それなのに・・・・・・。
・・・・・・。
"カイ。"
その笑顔に、何度救われたことだろうか。
それと同時に、その眼差しの成長に、何度圧倒されたことか。
気付いていた、お前の"願い"はとっくに。
「いけ、セツナ!!!!お前の愛を見せつけろ!!!」