last night
□第三十五夜
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木ノ宮家に戻るや否や、カイはタカオやキョウジュに真っ先に風呂場へと連行された。
よほど酷い有り様だったのだろう。
確かに、ブルックリンのキングオブダークネスを喰らい、セツナに助けられてからも、HMSを扱う為にぶっ続けで特訓をしていたのだから、無理もない。
熱いシャワーを浴びれば、傷付いた箇所がヒリヒリと痛み、生傷から再び血が滲む。
後でこっそりセツナに手当てでもしてもらおうか。
傷を見て、眉を顰める彼女の顔を想像すると、自然と口許が緩んでしまい、カイは自身のその反射に一瞬戸惑う。
「・・・・・・。」
シャワーを浴び終え、何気なく縁側に足を運ぶと、そこにいたのはセツナではなく、彼女の聖獣であるキリだった。
『・・・随分かかったな。』
「・・・・・・。」
辺りにセツナがいる様子は無い。
ということは、カイ自身に用があるということだろう。
「どうした。」
『・・・・・・別に。お前と話したかっただけさ。・・・・・・もしかしたら、これが最後になるという可能性も、無くはないからな。』
「・・・?」
瞬間、カイは怪訝に顔を曇らせる。
『・・・・・・なぁ、カイ。頼まれてくれないか。僕がセツナ以外で認めたブレーダー・・・お前にしかできない、僕の願いを。』
・・・・・・セツナと僕が結んだ契約について、お前は知っているだろう?
ああ、そうだ。
あいつに僕の麒麟としての力を取り戻させる為に、願いを三つ叶えてやるというのが、ざっくりとした契約だ。
・・・だが、この契約はそもそも、僕の呪いを解くための儀式の一つであることを、まずは覚えておいてほしい。
「呪い・・・」
『ああ。お前は覚えているか?ユーロのラルフというブレーダーの屋敷、それから、聖封士達のことを。』
カイが頷くのを確認すると、キリは話を続ける。
僕がセツナの願いを全て叶え終えると、元の力を得て、晴れて僕は封印から解放されるんだ。
しかし、それは同時に過去のように偉大で、自由な力を得ることになる。
・・・つまり、自分の思うままに力を使えるということだ。
善も悪も関係ない・・・ましてやセツナだって・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・僕は元々、自身の有り余る力を過った使い方をし、神様・・・聖封士の先祖と、ゼウスによって封印された過去がある。
「!!」
『それそのものが大罪とされたこともあり、僕は・・・再び力を得ることに、いつからか恐れを持っていたようだ。』
キリは目を伏せ、大きく息を吐いた。
『セツナの隣はとても居心地がよかった。安心して、僕は"守る"ことに力を使えたからな。』
だがそれも、力が全て戻ったら、どうなるのかなんてわからない。
『再び莫大な力を手に入れたそのとき、僕はもしかしたら、麒麟の力でセツナを喰い尽くすかもしれない。それこそ、五聖獣全ての力を従えて。・・・・・・だからそうなる前に、僕はセツナの元を離れようと思う。』
「!!」
『・・・・・・カイ、セツナを守ってくれないか。僕に代わって、お前が、あいつの未来まで。』
「・・・・・・っ、ふざけるな!!」
『・・・・・・。』
「貴様とあいつの契約なんぞ、俺の知ったことじゃない。あいつを守れ?言われなくてもしてやるさ!・・・だが、貴様が消えたらセツナはどうやって戦う?願いも戦う術も無くしたら、あいつは・・・、ブレーダーとして、生きる道を失うことになる・・・!!」
『・・・・・・わかってるさ。だから、契約をいっそのこと、結んだまま・・・このまま願いなんて叶えず、一緒にいることだって考えたさ。・・・・・・だが、もう無理みたいなんだ。』
「何?」
『・・・・・・あいつが今日、倒れただろう。あれは、ただ単に麒麟の力を使いすぎたからじゃない。・・・・・・三つ目の願いを叶えることを拒み続けた結果、その反動が身体に働きかけたのさ。』
「・・・・・・。」
『セツナは本当は、三つ目の願いが決まっているのだろう。だが・・・・・・。』
「?」
そう言いかけたところで、キリは言葉を咀嚼した。
ふと、ある"賭け"を思い付いたからだ。
『・・・いや、そうだな。確かにお前の言うとおりだ、カイ。このままじゃ、あいつは戦えなくなる。・・・・・・やはり僕が直接話すしかないな。』