last night
□第三十一夜
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「カイ・・・カイ!!」
カラカラの喉で叫んだ名は、何度後ろへ逃げていったことか。
漸く見えてきた建物の前にはすごい人だかりが出来ていて、足を止めざるを得ない。
「はぁっ、は・・・・・・。」
聖獣の気配を探らないようにしていたというのに、ここからでも分かる・・・・・・。
「朱雀・・・・・・。」
それから、もう一つ、とても強い聖獣の気配を感じる。
とても懐かしい気配なのに、迂闊に近寄れない危うさがある。
そう、まるでキリのような・・・・・・。
「・・・・・・。」
"逃げるな。"
頭の中で叱責して気付く。
私は、今やっとこうしてカイを追い掛けているということに。
言い訳して、それっぽい理由を付けて、結局私はカイと向き合うことを避けていたのではないか。
・・・・・・情けない。
本当に。
でも、もうそんなことどうだっていい。
だって、こんなにも苦しそうな朱雀の気配を感じて、じっとしていられる筈がないのだ。
「あっ、君待ちなさい!!今はもう入場規制が掛かってるんだ!!」
「っ・・・!!」
入り口に差し掛かろうとしたところで、警備員のお兄さんに止められる。
・・・・・・無理矢理突破するか?
・・・・・・いや、それじゃダメだ。
「・・・・・・。」
私はその手を掴み、お兄さんの目をじっと見た。
「あれ、君はもしかしてBBAチームの、土崎セツナ・・・?」
「・・・・・・。」
ごくり。
「やっだぁ!!お兄さんやっとわかってくれたのぉ?あのね、私ヴォルコフさんに言われて、今日の試合ミンミンちゃんとコラボして、歌って欲しいって呼ばれてたんだぁ♪確かに遅刻しちゃって悪いんだけど、そこ通してくれる?」
マジ口から出任せ1000%。
・・・・・・ああ、恥ずかしい・・・・・・つーか、やっちまった感半端ない・・・・・・も、マジしくじった・・・・・・。
「・・・・・・。」
つーか、コラボって何よ。
敵同士でそんなことできるわけないだろ!?
「・・・・・・。」
「あ、あの・・・・・・、」
「うぉぉぉおおおおおおっっっ!!!」
「!?」
「本当!?セツナちゃん!!!ミンミンちゃんとコラボすんの!!?すっごい楽しみっ・・・ああ!!こんなところで警備してないで生で見たかった・・・!!でも中継を録画してるから、後でじっくり見るよ!!・・・・・・って、ごめんなさい!!ヴォルコフさんに言われてるんだよね。通っていいよ!!それじゃあ頑張ってね!!」
「あ、は・・・・・・はい?・・・・・・あ、ありがとうございます・・・!!」
よくわからないけど通してもらえるみたいだから、握手をしておいたら、お兄さんはまた雄叫びを上げた。
・・・・・・BEGAのセキュリティ、チョロいんだな・・・・・・。
・・・・・・ま、何はともあれ、
「さっきのあれは無いわ・・・・・・。」
よかった。
BBAの皆が居なくて。
入り口に入ると、外とは打って代わり、とても静かだ。
選手達は全員、テレビでやっていたメインスタジアムに集められているってことか・・・・・・。
「・・・・・・よし。」
私はそのまま、聖獣の気配を強く感じる方へと全力で駆け出した。
そうしている間にも、朱雀の気配はどんどん荒んでいく。
・・・・・・カイがそれほどにまで苦戦するなんて・・・・・・。
やっぱり、あの子は危険だ。
・・・・・・ううん、あの子だけじゃない。
使われているベイも、今までにないくらい強力で、禍々しい気配がする。
考えたくないけど、もしかしたら、五聖獣・・・・・・いや、キリと同じくらい・・・・・・?
「カイ・・・・・・負けるなよ・・・!!!」