last night

□第三十夜
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その時間はあっという間に過ぎていった。



楽しくて、辛くて、嬉しくて、苦しくて・・・・・・とても、愛しい。



だからね、どうしても考えずにはいられないんだ。






















「何で、貴方はここにいないの?」


























「・・・・・・、」



朝陽が射し込む部屋で目覚めたカイは、やけに背中に汗をかいていることに気付いた。

「・・・・・・セツナ・・・・・・。」

夢の中で、彼女と戦ったような気がした。

彼女と愛機のベイは、とても強くなっていて、カイは久しぶりに自分が夢中でバトルをしていたことに気付く。

しかしそれは所詮夢。



・・・・・・仮に彼女が強くなっていたとして、カイが真に戦いたいのは木ノ宮タカオだ。



戦うべきは、彼女ではない。



「・・・・・・。」



気だるい身体を起こし、シャワーを浴びる。

熱い湯は、身体中の血を活発に流し、更に発汗を促進させたが、その後で冷水を浴びて一気に頭を覚ます。



キュッと蛇口を捻り、タオルで身体を包み、無意識に息が漏れる。



今日は正式に、BEGAの選抜選手が発表される日だ。

いよいよ、木ノ宮タカオと戦える日が近付いたのである。

着替え終わったカイが、僅かに持ち上がった口角を指で押さえたときだった。



突然部屋のドアをノックする音が耳に入り、眉間に皺を寄せる。

タオルで適当に拭いた髪が水を滴らせる中、カイがドアノブを回せば、そこには疾風のジン・・・もとい、木ノ宮仁がいた。



「・・・・・・何の用だ。選抜選手の発表は午後からだろう。」

「ああ、そうだな。」

「・・・・・・。」

元々カイは人付き合いが得意な方ではない。

というより、火渡エンタープライズの跡取りであるカイにとって、わざわざ周囲の人間に愛想をよくする必要など無かったのである。

だが仁ほど、相性の悪い人間もそうそういない。

お互い表情には出さないものの、その周囲の空気は確実に張り詰めている。

「用がないのならば帰れ。」

「用がなければこんなところわざわざ来るわけないだろう。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・ジャスティス6に出られる選手は、その名の通り6人だ。ガーランド、モーゼス、ミンミン、ミステル、ブルックリン、そしてカイ。"お前の名が世間では囁かれているな。"」

「・・・・・・。」

仁の含みを持たせた言い方が、カイの癇にいちいち触る。

「違うというのか。」

「どうだろうな。・・・・・・それはこれから決まる。」

「・・・・・・?」

「今度開かれる元BBAとの試合・・・BEGAは登録選手内でトーナメントを行って決めることになった。」

「ハッ、無駄なことを。」

例えあから様な力の差があったとしても、選手を平等に決める姿を世間に見せつけ、BEGAのシステムの株を上げるという、ヴォルコフの狙いだろう。

「・・・先程ヴォルコフ会長と話し合い、正式に決まった。勿論、君にも参戦してもらう。」

「・・・・・・ふん、そのようなことをせずとも、結果は明らかだと思うがな。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・言いたいことはそれだけか?」

それならばと、カイは押さえていたドアから手を外し、部屋へ戻ろうとする。

だが、仁はそのドアを押さえると、カイの耳に口を近付けて囁いた。

「・・・・・・タカオばかり見ていると、足下を掬われるぞ。」

「何・・・・・・?」

「見くびるなよ、セツナは俺の為ならば、いくらでも強くなれる。」

「・・・・・・、」

「セツナは俺を愛しているし、俺もまた、セツナを愛しているからな。」

「っ・・・・・・!!」

今までセツナについて、仁は表面上しかカイには語らなかったし、カイもそのことについて特に興味はなかった。

セツナは自分だけを見ていたから。

そして何より、疾風のジンの興味はタカオにだけあると感じていたから。

しかし、今ここで、仁はキッパリとカイに、自分の想いを告げた。



そこで初めて、カイは自分の心に入った皹に気付く。

タカオの手を取ったセツナ。

兄の為に麒麟と契約したセツナ。


「・・・・・・っ、」

不敵に笑う仁を見据える目が、熱を帯びていく。

「・・・・・・貴様っ・・・・・・!!」

しかし、カイが例えようのないその感情をぶつけることは叶わなかった。

「木ノ宮コーチ。やっぱりここにいた。」

「ブルックリン、こんなところに何の用だ。」

「ブルックリン・・・・・・。」

「ヴォルコフさんが呼んでたから仕方なく知らせに来たんですよ。・・・・・・あ、僕試合まで散歩してきますね。」

「わかった。行こう。」

そうして仁はカイに背を向け、ブルックリンもまた、どこかへ歩を進める。

「・・・・・・。」



その場には、カイだけが残された。
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