last night

□第二十六夜
1ページ/8ページ

「・・・"木ノ宮タカオ、BEGAに参戦!?"だってさ。」



先日のミンミンとの対決の後、新聞にそんな記事が載せられたせいで、ちょっとした騒ぎになってしまった。

「"ヴォルコフ氏にとって、木ノ宮選手との和解は確実にBEGAを大きくするための第一歩となることは言うまでもない"・・・って・・・ああっ、もうっ!!適当なことばかり言って!」



ヒロミちゃんがぐしゃりと新聞を投げる。

「・・・こんなに大々的に報道されたら、今更タカオが声を挙げても混乱を招くだけ・・・ヴォルコフはそれをねらってたんじゃないの?」

私が溢せば、ヒロミちゃんはまた眉間に皺を寄せた。

「っ・・・そうだけど、それでも勝手なことを言わせたままでいいわけないじゃない!!タカオ!!あんたはどうなのよ!?」

「・・・・・・。」

「タカオ?」

ボヤーっと、空を見上げるタカオの前で手を振れば、ハッとしたようにこちらを見た。

「・・・ああ悪い悪い。プロになる、ってことを考えててさ。」

「ああ、ヴォルコフの言っていたことですね。確かに、BEGAが目指すのはベイブレード界のプロ育成でもありますから・・・。」

「タカオ、やっぱりプロに興味あるネ?」

「んー・・・つーか・・・あ、そういやマックス。PPBはBEGAのプロ育成についてどう思ってるんだ?」

「ママに聞いたけど、概ね皆賛成みたいネ。」

「そっかぁ・・・・・・。」

そう言ってタカオは腕を組むけど・・・・・・おいおい、冗談じゃないぞ。

「タカオ。貴方まさかプロって言葉に惑わされていないよね・・・?」

心配になって口を開いたまさにそのときだった。

「おお!!木ノ宮タカオ君!!」

「!?」

三人のスーツを着たおじさんが突然道場に入り込んできた。

「な、なんだなんだ!?」

「BEGAとの契約の話、聞きましたぞ。」

「もし、君さえよければ我が社とスポンサー契約をしてほしいのです!!」

「スッポン!?・・・ってなんだ?うまいのか?」

「フフン、バカね。スッポンは身体にいいのよ。」

「コホンッ!!」

脱線仕掛けた大地とヒロミちゃんは置いておいて、何でまたそんな話が出たのだろう?

「・・・その前に、貴方達は何なのですか?」

「ああ、すまないね。実は我々は是非ともBEGAと契約を結びたいと思っているのです。もしも我が社と契約していただければ、木ノ宮君をイメージキャラとして起用したいのです。」

「イメージキャラ!?」

タカオの目の奥が一瞬輝く。

「水原君には我が社のマヨネーズのCMに出ていただきたいと思っています。」

「Wow!!マヨネーズ・・・!!」

マックスまで・・・!!

「そして我が社では土崎セツナさん、君のグラビア特集を組みたいと思っているのです!!」

「ひぎゃっ!?」

「「「どうですかな???」」」

三人のおじさんはズイッと私達に詰め寄った。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!つーか俺はまだBEGAとは・・・。」

スパンッ!!

タカオの台詞に被せるように、襖が勢いよく空く。

僅かに漏れる気迫を背中で感じ取りつつ、恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはいつになく厳しい顔をしたお祖父さんがいた。



「・・・・・・お主達は何だね。勝手に人の家に上がり込んで。」

「ああ、挨拶が遅れました。私達、こういう者です。」

おじさん達は順々に名刺を差し出してきたが、お祖父さんは一瞬だけ目を通すと、その場で木刀を振りかざした。

「「「ひっ!!?」」」

すると、木刀を掠めた名刺がスパッと切れ、その場にひらひらと落ちたのだ。

「・・・ここは神聖なる道場じゃ。くれぐれも、邪心を持ち掛けないでほしい。」

「「「す、すすすすす・・・すみませんでしたぁっ!!」」」



おじさんたちは腰を抜かして逃げて行った。



「・・・・・・さて。」

お祖父さんは私達を振り返る。



「「「「「「ごくり。」」」」」」



私達は揃って息を飲んだ。










そして数十分後。











「あ、いたたたた・・・。」

ピシッ!!

「だぁっ!?」

理不尽だ・・・。

馴れない正座を続けさせられ、痺れる足の指を動かしたい気持ちをグッと堪えるものの、もう皆限界だ。



ピシッ!!

「でぇっ!!」

「いだぁっ!!」

もう何度目か。

姿勢を崩したタカオと大地に強烈な一撃が見舞われる。

「あんなことで決心が揺らぐとはまだまだじゃ。・・・タカオ、お主は何のためにこれまで戦ってきたのじゃ!?」

「何のためって、そりゃ・・・。」

「男なら、一度決めたことは最後まで貫くもんじゃ。」

「・・・・・・。」

「男って・・・私達女の子・・・。」

ヒロミちゃんの言葉に私も全力で頷く。

・・・が、

「よいか!?」

「「「「「「・・・はいっ!!」」」」」」



・・・・・・返事をせざるを得なかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ