last night
□第二十六夜
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「・・・"木ノ宮タカオ、BEGAに参戦!?"だってさ。」
先日のミンミンとの対決の後、新聞にそんな記事が載せられたせいで、ちょっとした騒ぎになってしまった。
「"ヴォルコフ氏にとって、木ノ宮選手との和解は確実にBEGAを大きくするための第一歩となることは言うまでもない"・・・って・・・ああっ、もうっ!!適当なことばかり言って!」
ヒロミちゃんがぐしゃりと新聞を投げる。
「・・・こんなに大々的に報道されたら、今更タカオが声を挙げても混乱を招くだけ・・・ヴォルコフはそれをねらってたんじゃないの?」
私が溢せば、ヒロミちゃんはまた眉間に皺を寄せた。
「っ・・・そうだけど、それでも勝手なことを言わせたままでいいわけないじゃない!!タカオ!!あんたはどうなのよ!?」
「・・・・・・。」
「タカオ?」
ボヤーっと、空を見上げるタカオの前で手を振れば、ハッとしたようにこちらを見た。
「・・・ああ悪い悪い。プロになる、ってことを考えててさ。」
「ああ、ヴォルコフの言っていたことですね。確かに、BEGAが目指すのはベイブレード界のプロ育成でもありますから・・・。」
「タカオ、やっぱりプロに興味あるネ?」
「んー・・・つーか・・・あ、そういやマックス。PPBはBEGAのプロ育成についてどう思ってるんだ?」
「ママに聞いたけど、概ね皆賛成みたいネ。」
「そっかぁ・・・・・・。」
そう言ってタカオは腕を組むけど・・・・・・おいおい、冗談じゃないぞ。
「タカオ。貴方まさかプロって言葉に惑わされていないよね・・・?」
心配になって口を開いたまさにそのときだった。
「おお!!木ノ宮タカオ君!!」
「!?」
三人のスーツを着たおじさんが突然道場に入り込んできた。
「な、なんだなんだ!?」
「BEGAとの契約の話、聞きましたぞ。」
「もし、君さえよければ我が社とスポンサー契約をしてほしいのです!!」
「スッポン!?・・・ってなんだ?うまいのか?」
「フフン、バカね。スッポンは身体にいいのよ。」
「コホンッ!!」
脱線仕掛けた大地とヒロミちゃんは置いておいて、何でまたそんな話が出たのだろう?
「・・・その前に、貴方達は何なのですか?」
「ああ、すまないね。実は我々は是非ともBEGAと契約を結びたいと思っているのです。もしも我が社と契約していただければ、木ノ宮君をイメージキャラとして起用したいのです。」
「イメージキャラ!?」
タカオの目の奥が一瞬輝く。
「水原君には我が社のマヨネーズのCMに出ていただきたいと思っています。」
「Wow!!マヨネーズ・・・!!」
マックスまで・・・!!
「そして我が社では土崎セツナさん、君のグラビア特集を組みたいと思っているのです!!」
「ひぎゃっ!?」
「「「どうですかな???」」」
三人のおじさんはズイッと私達に詰め寄った。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!つーか俺はまだBEGAとは・・・。」
スパンッ!!
タカオの台詞に被せるように、襖が勢いよく空く。
僅かに漏れる気迫を背中で感じ取りつつ、恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはいつになく厳しい顔をしたお祖父さんがいた。
「・・・・・・お主達は何だね。勝手に人の家に上がり込んで。」
「ああ、挨拶が遅れました。私達、こういう者です。」
おじさん達は順々に名刺を差し出してきたが、お祖父さんは一瞬だけ目を通すと、その場で木刀を振りかざした。
「「「ひっ!!?」」」
すると、木刀を掠めた名刺がスパッと切れ、その場にひらひらと落ちたのだ。
「・・・ここは神聖なる道場じゃ。くれぐれも、邪心を持ち掛けないでほしい。」
「「「す、すすすすす・・・すみませんでしたぁっ!!」」」
おじさんたちは腰を抜かして逃げて行った。
「・・・・・・さて。」
お祖父さんは私達を振り返る。
「「「「「「ごくり。」」」」」」
私達は揃って息を飲んだ。
そして数十分後。
「あ、いたたたた・・・。」
ピシッ!!
「だぁっ!?」
理不尽だ・・・。
馴れない正座を続けさせられ、痺れる足の指を動かしたい気持ちをグッと堪えるものの、もう皆限界だ。
ピシッ!!
「でぇっ!!」
「いだぁっ!!」
もう何度目か。
姿勢を崩したタカオと大地に強烈な一撃が見舞われる。
「あんなことで決心が揺らぐとはまだまだじゃ。・・・タカオ、お主は何のためにこれまで戦ってきたのじゃ!?」
「何のためって、そりゃ・・・。」
「男なら、一度決めたことは最後まで貫くもんじゃ。」
「・・・・・・。」
「男って・・・私達女の子・・・。」
ヒロミちゃんの言葉に私も全力で頷く。
・・・が、
「よいか!?」
「「「「「「・・・はいっ!!」」」」」」
・・・・・・返事をせざるを得なかった。