last night
□第二十三夜
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「・・・・・・お兄ちゃん。」
「・・・・・・。」
視線をかち合わせたヒトシさん・・・・・・いや、"ジンお兄ちゃん"は表情を変えない。
それでももう、私は惑わされない。
「・・・・・・やっぱり、ずっと見ててくれたんだね・・・・・・。」
「・・・・・・セツナ、」
堪らず私はその胸に飛び込み、その背中を強く抱き締めた。
その匂いも暖かさも、今度は自信をもって、"本物"だと言える。
「ずっとずっと、会いたかった・・・!!生きててくれて・・・よかった・・・!!」
「セツナ。」
「!!」
お兄ちゃんは私の肩を持って身体から引き離すと、真っ直ぐに見つめた。
「・・・お兄ちゃん?」
「・・・・・・後で、俺の部屋に来い。」
「あ・・・。」
背中を向け、タカオの方へと向かうお兄ちゃん。
その背はカイと同じく、私が来ることを拒んでいて、だけれどそれは同時に私の確信を更に肯定していた。
・・・・・・本当に、お兄ちゃんなんだ・・・・・・。
改めてそう実感すると、震えが止まらない。
被せてもらったスタジャンに更にくるまり、じっとするものの、もう頭の中はお兄ちゃんでいっぱいだった。
「あ、あの、セツナ選手、お話を・・・。」
「・・・・・・。」
「セツナ選手?」
「あーっ!!今度はセツナかよ!?やいやいそこのカメラマン!!おいらだってBBAレボリューションなんだからな!!」
「のわっ!?」
私はスクッと立ち上がると、大きく息を吸い、そして吐いた。
「よっしゃあああああああ!!!!」
続いてタカオ達の元へと勢いよく走り出す。
「・・・あ、セツナちゃん!!」
「タッカオー!!」
「・・・え、のわぁっ!?」
思い切りその胸にダイブし、その衝撃でタカオごと倒れる。
「おおおおおいセツナ!?おまっ、こんなとこで・・・!!」
「やったよぉ・・・やったじゃん・・・!!」
「・・・・・・。」
「タカオ?」
タカオは私を抱えながら起きると、そのまま上に向かって抱き上げ、最高の笑顔を見せてくれた。
「ああ!!やったな、セツナ!!」
「・・・うん!!」
沢山のフラッシュを浴び、沢山のインタビューに答え、漸く木ノ宮家に帰ってきても、私達はまた、夜中までどんちゃん騒ぎをするのだった。
「・・・・・・。」
そして、皆がしっかり寝静まった頃を見図り、私は部屋を出る。
もう、あの頃と違って私を追い掛けて来てくれる人はいない。
だって、私は差し出された手を取ってしまったのだから。
でも、その先にはお兄ちゃんがいてくれた。
だから、私にはそれを嘆く理由なんて無いのだ・・・・・・。
「・・・・・・来ないかと思ったぞ。」
「私がお兄ちゃんとの約束を破るわけないじゃん。」
「・・・・・・。」
無言で部屋に入れてくれるお兄ちゃん。
ドアを閉めるとすぐに、ガチャリと鍵を掛け、私をベッドに座らせた。
「・・・ココアでいいか。」
「うん。」
脚をプラプラさせながら、その後ろ姿を改めて見て、顔を綻ばせる。
そして、その手から熱々のココアを受けとると、ふーふーと冷ましながら啜った。
「・・・・・・へへへ。」
「・・・・・・。」
暫くは二人でこうして、何も語らずにココアを飲む。
しかしそれを飲み終わり、暫くして漸く、お兄ちゃんが口を開いた。
「・・・・・・もう誤魔化せないとは思っていたが、よくわかったな。」
「・・・うん。でも、最初からそうであってほしいと思ってたから・・・よかった。」
「・・・・・・セツナ。」
「何?」
「お前はこれからどうする?」
「お兄ちゃんについていくよ。」
「・・・・・・。」
「? あ・・・。」
手に持っていたカップを机に置かれ、思わずそちらに目を向けた途端、ベッドに押し倒される。
「お兄ちゃん・・・・・・。」
そしてそのままお兄ちゃんはゆっくりと私に顔を近付けると、息の掛かりそうな距離で私の髪を撫でた。
突然のことにその手を思わず掴み、不安から視界が揺れる。
「・・・・・・このまま、元の世界へ帰るか?」
「え・・・・・・。」
「・・・・・・と言ったら、お前はついていくか?」
「・・・・・・!!」
「カイにも、タカオにも、勿論。この世界そのものに別れを告げるんだ。・・・その覚悟は、お前にあるか。」
「な・・・なんで・・・・・・、」
「答えろ。」
「・・・・・・。」