last night
□第二十二夜
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「キョウジュ、エンギンギア貸して!」
試合まで残り20分。
私は汗で湿った手を拭き、キョウジュへ差し出した。
「セツナ?何故・・・。」
「いいから。私に任せて、キョウジュは他のパーツを直して!」
「・・・・・・わかりました。頼みましたよ、セツナ!」
しっかりとパーツを受け取り、ベンチに広げてその状態を確認する。
金属の粉を樹脂に混ぜ、細い棒のようなもので隙間に入れた跡が窺える・・・こんな状態で戦っていたなんて・・・。
「・・・よく頑張ったね、ドラグーン。・・・・・・今から貴方に力を貸すよ。だから、元気になるんだよ。」
目を閉じてエンギンギアに触れる。
冷たい感触を指で確かめ、傷に集中すれば、ドラグーンの戦いぶりが伝わってきた。
・・・・・・もう少し、もう少し・・・・・・・・・。
「行くよ、キリ。」
じんわりと、指の先が温かくなってきた。
しかし、同時に私の力がどんどん抜けていく。
バトルで使いすぎたんだ。
足りない、このままじゃ・・・。
「セツナ。」
そっと、肩に誰かの手が触れた。
この声、この暖かさ・・・大地か。
「セツナちゃん、私もいるわ。」
ヒロミちゃんも・・・いや、彼らだけじゃない。
ヒトシさん、キョウジュ、レイ、マックス、皆・・・タカオとカイのバトルを、待ち望んでいるんだ。
自分達の想いの行く末を、彼らに託しているから・・・。
「ドラグーン・・・もう少し、もう少しだ・・・!!」
タカオ・・・。
「!!」
ピリッと、指先が痺れた。
「!! セツナちゃん!!」
「セツナ!!」
「・・・今度こそ、繋いだよ・・・・・・後は、タカオ次第・・・。」
フッと力が抜け、その場に崩れ落ちれば、誰かが抱き抱えてくれた。
「・・・よくやった、セツナ。」
「お兄、ちゃ・・・・・・へへっ・・・。」
・・・・・・・・・。
「くぁ・・・っ〜・・・・・・、よく寝た!!」
起き上がったタカオは思い切り伸びをして、肩をコキコキと鳴らした。
「・・・あっ、そうだドラグーン!!キョウジュ、どうなった!?」
「タカオ・・・!!じ、実は・・・・・・。」
「お、エンジンギア直ってんじゃねーか!!サンキュー!!」
キョウジュの手からドラグーンを受け取り、喜ぶタカオの背中に、ヒロミはバシッと一発張り手を喰らわせた。
「・・・いでっ!?何すんだよヒロミ!!」
「・・・セツナちゃんよ。」
「え?」
「それ直したの、セツナちゃんなの。」
「セツナが!?」
ベンチを見ると、なるほど。
確かに先程まで起きていたはずのセツナが、再びぐったりと目を瞑っている。
「あんたの為に、麒麟の力を使ったのよ。」
「そっか、セツナが・・・。」
タカオはセツナに寄ると、汗で額にくっついた髪をそっと撫でる。
死んだように眠るセツナは、ピクリとも動かなかった。
「ありがとな、セツナ。またお前の力をもらっちまった・・・。」
「タカオ。エンジンギアだけはセツナのお陰で完全に修復できました。ただ、本体はやはり、樹脂で応急処置をするしかありませんでした。くれぐれも、気を付けてください。」
「へへっ、んなのカイだってセツナと一戦交えてんだから同じだろ。・・・行くぜ、ドラグーン。俺達の力、見せてやろうぜ!!」
エンジンギアを巻き直し、スタジアムへと歩き出す。
「カイ・・・。」
「・・・・・・。」
誰もが待ち望んだ戦いが、とうとう始まる。