last night
□第十七夜
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その後、カイは黙って消えてしまった。
本当はもっと話したい気持ちもあったが、それよりも私を庇って怪我をしてしまった大地が気掛かりで、ただ彼を見送ることしかできなかった。
「大地・・・ごめんね・・・・・・。」
「・・・謝ったりなんかすんなよな。これでお前が酷い目に遭ったりなんかしたら、男として父ちゃんに顔向け出来ねえ。」
「・・・でも、」
「っ、だから!!・・・だか・・・ら、明日は・・・絶対勝てよな!!」
「!!」
大地・・・すごい震えてる・・・。
怖かっただろうに、痛いだろうに、悔しいだろうに・・・。
堪らずその肩を抱き寄せ、頭を撫でる。
「ありがとう・・・本当は、試合出たかったよね・・・楽しみにしてたよね・・・大地の分まで、頑張るからね・・・。」
「っ、・・・ぅ、やめろよ・・・そんな、そんな・・・っ」
抱き締めた身体が次第に大きく震える。
程なくして嗚咽が聞こえて来たが、私はその頭をただ撫でることしかできなかった。
その後、病院で大地の怪我を見せたが、縫ったりなどする必要はないとのことで、一先ずほっとする。
しかし、案の定明日のバトルは出てはならないと告げられてしまえば、穏やかな顔はできない。
連絡を受けたヒトシさんが病院へ駆け付け、私達はタクシーでホテルへ帰ることになったが、車内は至って静かだった。
ホテルへ帰ってくると、大地は疲れたと言ってさっさと眠ってしまった。
仕方なく私達は彼抜きで明日の作戦会議を進めることになったのだが・・・。
「結局、明日はタッグバトルで行くのかどうかをハッキリさせておこう。」
「そうですね・・・。タッグバトルを行うに当たり、改めて三人のパワーバランスや戦績をグラフにしてみましたので、これを参考にして考えましょう。」
そう言ってキョウジュが見せてくれた私達のパラメーターを見ると、なるほど。
確かにヒトシさんがタッグでタカオと大地を組ませたがるわけだ・・・。
「回転力を除き、タカオと大地ならば互いに弱点をカバー出来そうには見えたのですが・・・。」
「これなら、セツナちゃんとタカオはシングルで戦った方がよさそうね。」
「・・・・・・。」
まさかここまでとは・・・。
いや、個の力は私の方が大地よりも全然高い。
ただ、キョウジュのグラフだと、圧倒的にタカオと私の組み合わせよりも、タカオと大地の組み合わせの方が、バランスがいいのだ。
「・・・・・・確かに、タッグなら大地のがよさそうだけど・・・。」
私はチラリとタカオを見た。
画面を真剣に見ている彼の横顔が、ブルーライトで照らされている。
・・・・・・貴方は、どう思っているの・・・?
「・・・タカオ。お前はどうだ?」
「ああ。・・・俺、今日のレイやマックスのバトルを見て、すんげぇ感動したんだ。あいつらがあんなにすげえバトルを見せてくれたんだから、俺もチャンピオンとしてそれに応えてえんだ。」
タカオはパソコンから目を離すと、真っ直ぐに私を向いた。
「頼む、セツナ。俺とタッグを組んでくれ。今度こそ、リベンジしてえんだ!!今なら、チャンピオンとして、今度こそお前の力を最大限に引き出してやれる気がするんだ!!」
・・・・・・。
そっと俯いて、気付かれないように息を吐く。
わかってる・・・大丈夫・・・・・・。
「うん・・・よろしく、タカオ。」
どのみち、負けてなんていられないんだ。
しかし、
「・・・・・・キョウジュ。確認していいか?」
「はい、なんでしょう。」
「タカオのこの数値は、果たして本当に正しいのか?」
「ええ。間違いありません。先程の三人の戦いを精密に記録し、最新のパラメーターを作ったのですから。確かに、回転力がセツナより下回っているのは意外でしたが・・・どうかしました?」
「・・・いや、思い過ごしだといいんだが・・・セツナ。」
「は、はいっ!?」
突然名前を呼ばれ、背筋が伸びる。
「あまり気を張るな。窮地に立たされたわけでもない。」
「は・・・い・・・・・・。」
でも、今私がいる場所には本当は大地が・・・・・・。
そう考えると、次のFサングレとの試合は何がなんでも負けられない。
タカオが私の力を最大限に引き出すんじゃない、私がタカオの力を最大限引き出すつもりでいなきゃ・・・!!
「ま、大丈夫だって、チャンピオンの力を見せてやるからさ!!セツナ、明日は何がなんでも勝ってやろうぜ!!」
「うん・・・!!」
「・・・・・・。」