last night
□第十三夜
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きっと勝てないと思っていた。
最後は結局、自分がいなければ、勝負にならないのだと、どこか周りを見下していた。
「嘘だろ・・・・・・あいつらが、やったのかよ・・・・・・。」
世界大会初の勝ち星を獲得したチームメイト達を、タカオは遠くから見ていた。
素直に喜ぶ彼らが眩しくて、今ここにいる自分が余計に惨めに見えてしまう。
・・・いや、そう見えるのはタカオだけで、端からなんてそもそも気にされていないのかもしれない。
そう考えると、ますます孤独に思えてしまう。
「・・・・・・。」
ふと、セツナに目を移すと、彼女が憑き物が落ちたような顔をしていることに気付いた。
隠しているのか割りきっているのかはわからないが、あんなにも眩しい顔をする彼女を見るのは久しぶりだった。
トクン・・・と心臓が音を立て、切なく胸を締め付けてくる。
そうだ・・・。
俺は、セツナのあの笑顔が見たかったんだ・・・。
ぐしゃりと襟元を掴み、視線を下げる。
「なんでだよ・・・なんで、あんな顔出来るんだよ。」
カイに相手にすらされなかったくせに。
大地に全ていいところを持っていかれたくせに。
「・・・・・・。」
"本当は、違うってわかってんだろ?"
「・・・・・・くそっ・・・・・・。」
そうだ。
本当は心のどこかでとっくに気付いていた。
セツナは自分ではなく、"チーム"として世界大会と向き合っていたことを。
強くなりたいのは自分の為ではなく、仲間の為であったこと。
そして、自分はセツナにとって、"共に強くなるための存在"であること。
・・・"共に歩んでいく存在"ではないということ。
きっとこの先、どれだけタカオが頑張っても、"仲間"から"恋人"へ関係が変わることは無いのかもしれない。
しかしそんなこと、誰にもわからない。
わからないものをいつまでも悩んでいたって仕方がない。
「まぁだ悩んでいるのか。少年よ。」
「わぁっ!?」
突然肩を叩かれ、心臓が跳ね上がる。
「なんだじぃさんかよ!!ビビらせんなってーの!!」
つか、チィータイムの途中じゃなかったのかよ!!
そう言って口を尖らせれば、タオは呆れたように息を吐いた。
「ふぅ・・・お主、一体いつまでそうしてるつもりじゃ?」
「うるせーよ。・・・好きで悩んでいるわけじゃねえのに。」
「いや、そのようなことはない。」
「はぁ?」
「悩むも悩まぬもお主次第じゃ。じゃが、どうしても時の力を借りねば解決出来ない問題も世の中には沢山ある。いつまでも考えるのは自由じゃが、もうちょい目先のことを見てもいいと思うがの。」
「目先のこと・・・。」
そうだ。
さっきはそうやって飛び出してきたのに。
セツナのこと、カイのこと。
でもそれよりも今、自分に大切なのはそんなことじゃない。
「・・・・・・世界大会を前にして、何やってんだ・・・俺は・・・!!」
そう歯を食い縛り、ふと先程のセツナの顔を思い出した。
セツナは、同じ事を考えなかったのか?
いや、きっと考えたに違いない。
それでいて、彼女が出した答えがあれならば・・・・・・。
「・・・・・・俺も、悩んでいる場合じゃねぇ・・・・・・・・・なぁ、じいさ・・・あれ?」
先程までタオが居た筈の場所に、彼の姿は見えなかった。
しかし、代わりにその視線の先から、チームメイト達がやってくるのが見える。
気まずい思いはそのままに、彼等と目があってしまった。
「タカオ・・・・・・。」
「・・・・・・よぉ。」
後にも先にも行き場のないタカオは、頭をがしがしと掻いた。