last night

□第九夜
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「・・・・・・俺だって、・・・俺だって!!!」

「!!」

キッと睨み付けるような顔。

乱暴に押し付けられた両手。

その瞬間、危険な信号が再び頭の中で点滅する。

案の定近付く唇。

掛かる吐息。



・・・・・・漸く気付いた、彼の本音。












「・・・・・・。」

「・・・・・・っ・・・、」












思わず目を瞑り、息を飲んだ。










ガチンッ












「ったぁ!!」

「でっ!?」



途端に離れる身体。

口の中に広がる鉄の味。

ああ・・・知ってる、これ・・・・・・。



「・・・歯に歯茎が当たった・・・・・・。」

「・・・ぁ・・・・・・・・・。」

凍みる箇所を舌で押さえ、ポカンとするタカオを一瞥し、そして、その頬を思いっきり打った。

「・・・・・・っで!!」

「〜っ・・・・・・。」

大きく息を吸い、そして吐く。

心臓が世話しなく動くのを感じながら、しかし決してそれを悟られないように、声を落として言葉を紡ぐ。

「・・・・・・いつから?」

「・・・・・・!!」

タカオはハッとしたような、悲しいような複雑な表情を見せ、手を下ろした。

「・・・・・・っ、わかんね・・・・・・でも、もう、ずっと・・・・・・。」

「・・・・・・。」

握りしめた拳が震えている・・・。

彼が、どんな気持ちでこんなことをしたのか、私は今更になって考え始めた。

「・・・・・・こうなるって、わかってたのにな。・・・・・・ごめん!!」

「タカっ・・・」

しかし、呼び止める前にするりと腕をかわして、タカオは部屋から出ていった。

「・・・・・・はぁ。」

ずるずると力が抜け、その場で座り込む。

自然と涙が溢れ、膝を抱えれば、瞼の裏にカイの姿を思い出さずにはいられなかった。

「・・・・・・なんで、こうなっちゃったんだろ・・・・・・。」

ずっと前って、いつからよ?

出会った時・・・じゃないよね?

そんな悶々とした問いを繰り返す内、益々悲しくなってくる。

しかし、それと同時に彼が私やBBAの皆に与えてくれた情熱や、思いやりも浮かんできて、その狭間で息がつまりそうになる。

「わけわかんない・・・。」

相変わらず歯茎は痛いし、涙は止まらない。

だけれど、誰にこんな気持ちを話せる訳でもなく、布団に入り込み、声を殺した。
















セツナの部屋から飛び出したタカオは、ただ闇雲に走り続けた。

廊下を駆け、階段を一段飛ばしで上がっていく。

行き着いた先である屋上のドアを思いっきり押して、満天の星空へと躍り出た。



「っっっっちっくしょーっっっっ!!!」



叫んだところで何が変わるわけでもないということは、もう痛いくらいにわかっている。

それでも叫ばずにはいられなかったのだ。



レイとマックスが他チームへ移籍し、今まで自分達の築いてきた物が崩れたような気がしていたタカオだったが、カイとセツナが日本大会に出た時、希望が見えたような気がした。

しかし、そのカイまでもいなくなり・・・・・・つい先程、ニュースでネオボーグへの電撃移籍を知り、その希望が再び見えなくなった。

まだそのことを知らないであろうセツナと練習をし、心配をしていたら、彼女の口からは思いがけない台詞が紡がれ、ついに今まで溜めていた何かが弾けたのだ。

それでも、今となっては何故あんなことをしてしまったのか、後悔しか残っていない。

打たれた頬を押さえ、小さな舌打ちをする。

あんな顔をさせたいわけじゃなかった。

この気持ちは、今明かすべきじゃなかった。

わかっていたのに、短気な自分はその衝動を抑えられなくて、遂に手を出してしまったのだ。



セツナの辛い顔が見てられなくて、だけれどそれ以上に、カイという自分にとって最高のライバルを見ていた筈のセツナの興味が、自分の兄へと移ったような気がして、限界だった。



「・・・・・・なんでセツナを置いてったんだよ・・・カイ・・・!!」

フェンスを強く握り、歯を食い縛る。



初めての苦しみを、一人でなんとかしようと、タカオはその場からずっと動かなかった。
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