last night
□第八夜
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こうして無事に合宿を終え、数日後。
再び私達はBBA本部前に全員で集まっていた。
「いよいよアメリカへ出発だが、忘れ物はないな?」
「ああ!!〜っかし、とうとうアメリカへ行けるんだな!!」
「うん。」
「おうっ!!」
合宿以来、こうして全員が顔を揃えるのは久しぶりだけど、それでも以前よりは大分空気が柔らかくなったと思う。
バスに乗り込み、今回はヒロミちゃんの隣に座っていると、通路を挟んで隣の大地君がこちらをじーっと見ていたので、持っていたお菓子をあげた。
「サンキュー!!」
「いや、全部あげるつもりはないんだけど・・・ってか、そんなに食べて酔わないの?」
「へ?」
頬っぺたにチョコレートをつけてきょとんとする大地君。
「いや・・・失礼だったら悪いんだけど、乗り物、平気なのかなって。」
「へっ。バカにすんじゃねえよ。合宿んときだって酔わなかったんだから大丈夫だって!!」
「でも、アメリカへは飛行機使うじゃん?」
「へ?」
「「「え。」」」
私はヒロミちゃんとタカオと目を合わせた。
そんなバカな。
「何言ってんだ?アメリカへは船で行くんじゃねぇのか?」
「やむを得ない場合以外は飛行機だよ・・・てか、誰からも聞かなかった?」
「聞 い て ね え 。」
みるみる内に大地君の顔が青ざめていく。
やっちまった、と思ったけれどもう遅い。
大地君は突然立ち上がり、帰ると言い出した。
「やだやだぁっ!!!あんな鉄の塊が飛ぶわけねぇっ!!!おいらはまだやり遺したことがあるんだぁぁああああっ!!!」
「ちょっ、どうしたんですか!?・・・わぁっ!?」
異変に気付いたキョウジュが振り向くと同時、急カーブを曲がったせいでバスが大きく傾く。
「ふんがっ!?」
そして、当然だけど大地君はバランスを崩し、自身の頭をタカオの頭とぶつけた。
「いっでぇ!!!」
そのままよろけた大地君は椅子に座り、ぐったりとしている。
どうやらさっきの衝撃で気を失ったらしい。
「・・・・・・そのままにしておこうか。」
「そうね・・・。」
私とヒロミちゃんは何事もなかったかのように体の向きを戻し、大会の規定を読み直すことにするのだった。
案の定、飛行機の中では生気を失ったように何も喋らない大地君。
私とヒロミちゃん、タカオは、そんな彼をキョウジュとヒトシさんに任せて、三人でボードゲームをしていた。
「それにしても、大地に苦手なものがあったなんて意外だったな。」
「怖いもん知らずみたいな顔してたのにね。」
「ふふん、いい気味よ。今度"おばさん"って言ってきたら空港に連れていってあげるわ。」
そんな私達の会話にも、全く反応がない。
・・・・・・うーん、流石に大丈夫か・・・・・・?
「三人とも。暇潰しもいいですが、しっかり休んでくださいね。向こうに着いたらこんなにのんびりできる時間も無いのですから。」
「はーい。」
「・・・ふぅ。あ、それはそうと、セツナ。」
「ん?」
「一つ、聞きそびれていたことがあったのですが・・・・・・カイのことについて、よろしいでしょうか?」
「・・・・・・。」
私はカードを持っていた手を、ピタリと止めた。
そして、すぐになんでもないような顔を作り、首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ、貴女ならば何か知っているかもしれないと思ったのですが・・・カイは、BBAチーム出場を辞退して、どこへ行ったのでしょう?」
「・・・・・・。」
"・・・・・・大丈夫だよ。"
"そんな顔で何を言っている。"
"大丈夫。・・・・・・カイのこと、信じてるから。"
"・・・・・・。"
"なりたいんでしょ?本物の世界一に。"
"・・・・・・っ、"
「セツナ?」
「・・・・・・来るよ。」
「え?」
「世界大会に・・・・・・あの人は、出てくるよ。」
「それは、どういう・・・?」
「・・・・・・。」
「!!」
ただ黙って微笑めば、何を察したのか、キョウジュはそれ以上何も聞いてこなかった。
「あーあ、なんか眠くなってきたなぁ。・・・ちょっと寝るから、あとで起こして。」
「なぁ、セツナ・・・」
「タカオ。・・・・・・わかったわ、セツナちゃん。」
私は心配そうにこちらを見つめるタカオとヒロミちゃんを横目に、カードを置いて、ゆっくりと目を閉じるのだった。