last night
□第三夜
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「ゴーシュート!!」
去年、皆で特訓をした海に、たった一人で練習をしに来た私は、かれこれ一時間くらいここにいる。
でも、そろそろ移動しなきゃならない。
ドラキリューを手に戻し、足跡が微かに残る海岸を歩いていく。
いよいよ明日は本番だ。
それなのに、私はカイに会わせる顔が無くて、こんな風に一人でいろんな練習場所を転々と移動していた。
その理由はいくつかあるけれど、特に一番の理由は、昨日のコスプレ忍者・・・もとい、疾風のジンとの件を引きずっているからだ。
お兄ちゃんに似ている(というか多分全く同じ顔)というだけでも大変なことなのに、その上唇まで奪われたなんて、カイに言えるわけがない。
「くっそ・・・思い出しただけでムカつくわ。」
なのに、思い出すとまぶたの裏が熱くなる。
「だぁぁぁぁっ、もうっ!!」
あのレベルのブレーダーだし、わざわざあんな風に私に勝負を吹っ掛けて来たということは、今度の世界大会に出るのは間違いないだろう。
ならば、そのときにこてんぱんにしてやるしかない。
そのつもりで、私はひたすら練習を繰り返していた。
「ぉぉぉぉおおおおおっっっっ!!」
日焼け止めが完全に流れ、タンクトップの跡がまたしっかりと残ってしまう。
それでもそんなことを気にする余裕なんて無い。
「ランドストーム!!」
だって私は"答え"も探さなくてはならないのだから。
私がどうしたいのかという、自分史上最大の難問の答えを。
今度はBBA本部のトレーニングルームへ場所を移す。
お昼時で人が少ないのをいいことに、私は特別ルームを借りて、マシン相手に無茶苦茶なバトルを行っていた。
だけれど、戦えば戦うほど焦る気持ちが募ってきて、あっという間に一時間が過ぎてしまう。
やむを得ずに表へ出ると、別のトレーニングルームから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ゴー!!シュート!!!」
この声・・・
「タカオ!!!」
バンッ!と勢いよくドアを開け、驚く彼のもとへ駆け寄る。
「セツナ!?どうしたんだよ・・・」
「どうしたもこうしたも・・・ずっと会いたかったのに、木ノ宮家に行ってもいないんだもん!!」
「あ・・・悪ぃ悪ぃ。大地のやつにずっと付きまとわれていてよぉ。・・・・・・あ。で、何か用か?」
「用とかじゃないんだけど・・・・・・兎に角、すっごくタカオに会いたかったの・・・。」
「え、俺に?いやぁ、照れるなぁ。なんだよセツナってば、カイがいるくせに俺にそんなこと言っちゃうなんて・・・って、お、おい!?なんで泣いてんだよ!?」
やっと会えたという嬉しさと、変わらない笑顔に安心したせいで、最近すっかり緩くなった涙腺からはまたしてもボロボロと滴がこぼれ落ちる。
「セツナ!?お前ほんとどうしたんだよ?」
「うっ・・・・・・。」
私は涙を拭い、今まで溜めていた思いを吐露する。
「マックスも、レイも・・・行っちゃった・・・・・・。」
「あ・・・。」
「私・・・寂しいって気持ちも、残念って気持ちも・・・まだ乗り越えられなくて・・・・・・。」
私だけじゃ、ないよね・・・・・・?
「セツナ・・・・・・。とりあえずさ、そこ座ろうぜ。」
そう言ってタカオが手を取る。
昨日ジンに掴まれたところが僅かに跡と痛みを残しているけれど、バレないようにそっと隠して、タカオについていく。
「・・・・・・よかった。セツナもそう思っててくれて。」
暫くしてタカオはそう言って笑った。
「俺、皆で世界大会に出るのがすごく楽しみだったんだ。・・・誰と組んでも面白そうなバトルができるって思ってたからさ。・・・・・・でも、俺が考えてた"もっと強いやつと戦いたい"って気持ちと、レイやマックスのそれは微妙に違ってたんだ。」
「・・・・・・。」
「あいつらは、俺を倒して世界一になりたかったんだ。」
「・・・・・・うん。」
「でも俺は、・・・あいつらと一緒に世界一になりたかったな。」
「・・・・・・・・・うん。」
皆で、"BBAチーム"として、世界一になりたかった。
「でも、もうレイやマックスが決めたことだから、私達には止められない。・・・わかってるんだけど、やっぱりまだ、あの二人がいないって認められないんだよね。」
「ああ。・・・・・・ハハッ、聞いてくれよセツナ。俺、あいつらにそれ聞かされたあと、ここで叫んじゃったんだぜ?」
「そうなんだ。・・・私なんて大泣きしたよ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
二人で顔を見合わせて笑う。