last night
□第二夜
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「カイ・・・。」
「・・・・・・。」
一先ず彼の名を口にはしたけれど、その先の言葉を、私は全く考えていなかった。
去年のように兎に角タッグを組んでさえいれば、全員が世界の切符を手にできるわけでもなく、一昨年のように、チーム内でローテーションしながら世界と戦えるわけでもない。
正真正銘、"BBAチーム"として選ばれるのが、二人だけなのだ。
そりゃ補欠という枠だってあるだろうけど、そんなに沢山は要らないだろう。
それに、きっと今年も沢山のルーキーが出場するだろう。
・・・・・・大転寺会長は、まさかそれを狙って・・・・・・?
「・・・・・・なんだ。」
「あっ、な、なに!?」
「?返事をしただけだが。」
「えっ、お、遅いわ!・・・・・・あのさ、この規定、どうしてこんな風になったのかなって・・・。」
「さぁな。・・・・・・だが、あのじいさんのことだ。」
「やっぱり狙いがある、ってことだよね・・・。」
カイは規定をじっと見つめたまま、何も言わなかった。
私はその横顔を見つめ、次にタカオ、レイ、マックスの顔を思い浮かべた。
きっと、タカオはほぼ確定で間違いないだろう。
だけど、問題はあとの一人だ。
・・・・・・いや、そんなことは問題じゃない。
もしも、万が一、日本代表から外れてしまったら、彼らはどうするのだろう?
そう考えた瞬間、背筋がゾクリと震えた。
足がガクガクと震え、心臓がぎゅっと絞られる。
やだ・・・・・・そんなことない。
そんなことない!!
だって皆、今までずっとBBAチームとして頑張ってきたのに・・・。
でも・・・・・・。
「セツナ?」
「・・・・・・っ。」
まだそうと決まった訳じゃないのに、想像しただけで怖くて堪らない。
こんなにも愛しい日々を失うかもしれないということが。
「ごめ・・・・・・なんでもない。ちょっと今日はもう寝るわ・・・。」
「セツナ・・・。」
私はカイに背を向けると、BBA本部の自室を目指そうと、踵を返した。
「待て。」
「っ・・・・・・。」
「一緒に行く。」
「・・・・・・ありがと・・・・・・。」
きっとこの人のことだ。
私が下を向いていたって、どんな顔をしているのか、私以上に知っている筈だ。
そして、私が何を考えてしまったのかも・・・・・・。
でもね、私だってそうなの。
二年も付き合って、散々隣で貴方を見ていたからわかる。
本当は貴方がどうしたいのかを。
それでも貴方は優しくて、だからこうして傍にいてくれる。
だけどどうしよう。
ここに来て彼と自分との決定的な"違い"を認識してしまい、訪れる未来が曇り始める。
カイの傍にいたい。
BBAチームとして、皆と世界大会に出たい。
・・・・・・ううん。
私は、BBAチームの皆と一緒にいたい。
それは私が戦う理由の一つだった。
そして、お兄ちゃんに会えないとわかった時から、更に強くなっていた"願い"でもあった。
どうか・・・。
どうか、皆と離ればなれになりませんように・・・。
来てほしくない朝がやってきてしまった。
腫らしてしまった目でゆっくりと瞬きをして、隣に彼がいることにホッとする。
もう一人で寝ることに抵抗はないけれど、それでもそこに誰かがいるだけで、こんなにも気持ちが違う。
その長い前髪を撫でながら、今はもう私の前でしか見せない寝顔を眺めていると、やがて彼がゆっくりと目を覚ました。
「・・・おはよ、カイ。」
「・・・・・・。」
カイは眠そうに数度瞬きをすると、私の髪をそっと掬った。
まだ少し、寝惚けているのだろう。
しかしそんな彼が愛しくて、そっとその唇にキスを落としてみる。
そんな風に、曇った夏の1日が始まった。
顔を洗い、支度を済ませてベッドへ目をやるものの、カイはまだ眠いのか起きてこない。
「カイ。私朝ごはん買ってくるけどどうする?」
「・・・・・・。」
返事がないということは、爆睡しきってるな・・・。
仕方ない。
心細いけど、昨日よりは落ち着いたし、一人で行くか・・・。
靴を履き替えて外へ出る。
すると、隣の部屋から丁度レイが出て来た。
「あ、おはよう。レイ。」
なんでもないように笑うけれど、レイはいつものような爽やかな笑顔は見せてくれない。
・・・・・・その瞬間、嫌な予感が頭を掠めた。