next night
□第二十八夜
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「貴方も、漸く私に本当の姿を見せたんだよね。」
石板の中、私は震えるヒロミちゃんの手をぎゅっと握った。
「な、に・・・?どういうことなの、セツナちゃん?」
「仕掛けはわからない。でも、タカオ達の前での立ち振舞いや、私に対しての態度、バトルの様子から考えると、ゼオは二重人格だと思ったんだ。・・・違う?」
「ははっ、流石にわかったか。・・・でも少しだけ違う。一つの身体を二人で共有している、というのが正しいかな。」
「?」
ゼオがほんの一瞬だけ、寂しそうな顔を見せたような気がした。
「・・・・・・一人めのゼオは、木ノ宮タカオのファンだった。ザガートが何をしているのかも知らずに、ただ純粋にベイバトルを楽しみ、BBAのメンバーと知り合えたことを喜ぶ、一介のベイブレーダーだった。・・・ただ、ザガートに自分の秘密を明かされ、その日を境に変わってしまったけどね。」
秘密・・・?
「・・・そして二人めのゼオは。」
ゼオは一呼吸置いて、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・10年前に身体を失い、ケロベロスと契約を交わしてここに閉じ込められた"俺"だ。」
身体を失った、ということは、ここにいるゼオは既に死んでしまったということ・・・!?
「・・・ということは、貴方の目的は、生き返ること・・・?」
「正解"だった"・・・というのが正しいかな。」
「・・・・・・?」
「あーあ、ここまで当てちゃったから、もういいか。・・・・・・元々俺の目的は、生きてもう一度父さんに会うことだった。でももうその願いは、ケロベロスが叶えてくれたから、果たせたんだ。」
「じゃあ、なんで貴方は未だに五聖獣を狙うの?」
「・・・・・・。」
「っ!!」
ゼオは黙り混むと、ギロリと目を細めた。
その目はあのときと同じ、心臓を直接鷲掴みにされたような、身体が動けなくなる力を宿している。
「話すよりも早いから見せてあげるよ・・・。」
「ぅ、・・・!!」
キーン・・・と、頭に甲高い音が響く。
すると、目の前の景色がどんどん崩れてきて、身体が透けていく。
「え、やだっ、なにこれ・・・!?ぅ、頭が・・・っ、はっ・・・」
ヒロミちゃんの身体がぐらりと傾く。
「ヒロミちゃん!!」
私は慌てて彼女の身体を支え、離れないように手と手をしっかり繋いだ。
『人間よ、知る覚悟は出来ているな?』
この声・・・聖獣・・・・・・?
「ああ、頼む。ケロベロス・・・!!」
ゼオの声・・・そうか、ここはゼオの記憶の中!!
記憶の中のゼオの声が、頭の中に流れてくる。
"石板に閉じ込められた後、ケロベロスと出会った俺は、もう一度父さんに会いたいと願った。"
ゼオが願いを叶えてもらうと、シャラン・・・と金属の音がなる。
記憶の中で生き返ったゼオは、とても楽しそうに過ごしているように見えた。
"一時的に願いは叶ったが、俺は生き返ったわけではなかった。"
"何故なら、その身体には違和感があったから。"
"それでもよかったんだ・・・父さんに会えたからそれで。"
"・・・・・・セツナを知るまでは。"
私・・・!?
ゼオの記憶のヴィジョンに、私の顔が写る。
これは去年の世界大会の時のものだ・・・。
ゼオはこれを見ていたんだな・・・。
"しかし、ある日セツナがこの世界から消えたと知り、俺は一つの決断をする。"
場面が変わり、石板の中へ戻る。
ゼオの目の前には、幾重にも鎖が絡み付いたケロベロスがいる。
しかし、ゼオの身体にも何本か鎖が巻き付いているのだ。
『人間よ、知る覚悟は出来ているな?』
「ああ、頼む。ケロベロス・・・!!」
"ケロベロスに俺の知らないことを全て聞いた・・・父さんは俺の死んだ後、俺によく似たロボットを作り、"ゼオ"として育てて来たこと、それから・・・、"
何、ロボットってどういうこと・・・?
段々声だけでなく、様々な感情や思考までもが頭の中に映像と共に流れてくる。
何も知らないロボットのゼオが、ザガートによってメンテナンスをされている。
一方本物のゼオは、石板の中からその様子を眺めている。
しかしそこで場面が変わり、ゼオがケロベロスに何かの映像のようなものを見せてもらっている。
しかし、その映像の中に広がる景色は、よく見覚えのあるものだった。
"それから、セツナのことを教えてもらった。"
ケロベロスが願いを叶えると同時に、鎖が一本ずつゼオの身体に巻き付く。
その度に、ゼオの前に私が元の世界で過ごすビジョンが写し出される。
"セツナ・・・。"
"貴方が堪らなく愛しい。"
ゼオの記憶の中には、いろんな私がいた。
ベイブレードの世界で笑う私。
元の世界で落ち込む私。
仲間に励まされて背筋を伸ばす私・・・。
剣道部、カイとの出会い、中国大会、ロシア大会、仲間との再開、チームサイキックとの戦い・・・・・・どんどん場面が移り変わってゆく。
"もしも身体があれば・・・、そう思い始めたのは、この頃だった。"