next night

□第二十四夜
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もう、10年近くも前になる。



ある日、俺は身体を失った。



大好きだった家とも、父さんとも、さよならすら言えずに。












彷徨い続けた俺の心は、父さんの研究していた一つの石板へと誘われ、そこで不思議な力があるということを知った。

中では、そんな不思議な力を宿した"聖獣"と呼ばれる者達が、復活の時を今か今かと待ち構えていた。

俺は、聖獣達と一緒に、石板で眠りにつくことを決めた。












しかし、何年か経ったある日・・・その中の最も強力な力を持つ聖獣が、俺に近付いた。



『・・・・・・貴様は人間だな。』

「死んでしまったから、人間じゃないよ。」

『・・・・・・ならば問おう。貴様は何故成長し続けている。』

「成長・・・・・・?」

『貴様がここへ来て10年が経とうとしている。最初は、言葉も碌に知らなかった貴様が、こうして我とまともに話すことができている。』

「・・・・・・。」

聖獣の言うとおりだった。

俺の視界に写るこの手は、ここへ来た当初よりもずっと大きくなっている。

髪だって、鬱陶しいくらいに伸びていた。

俺は、死んだ筈なのに・・・。



『人間、名はなんという。』

「俺は・・・・・・俺は、ゼオ。」

『ゼオ。もう一度、身体を手に入れてみたくはないか。腹が膨れるほどの馳走を食べ、愛しき者に抱かれて眠りに尽き、親しき友と成長を遂げる・・・誰しもが、当たり前に送ることのできる生活を、再び手にいれたくはないか?』

「生き返れるってこと・・・?どうやって!?」

『貴様次第ではある。』

「教えてくれよ!俺は・・・俺はもう一度、父さんに会いたい!!」

『よかろう・・・ならば、まずは麒麟の力を手に入れよ。』

「麒麟の力?どうやったらその力は手に入るんだ!?」

聖獣は教えてくれた。

聖獣の中でも、最も偉大な力を宿す聖獣のことを。

その中でも特に、稀有な力を宿すという、麒麟のことを。

「その麒麟を手にいれれば、俺は生き返れるんだね!?」

『それは不可能だ。』

「なんでだよ!?」

『麒麟には、絶対な服従を誓った少女がいる。・・・が、ゼオよ。嘆くことはない。その少女さえなんとかしてしまえば、あとはどうにでもなる。』

「五聖獣の力が、手に入るんだね。」

『そういうことだ。・・・ゼオ、よく聞け。我の力を微かながら貴様に貸そう。それを使い、現世で麒麟を探しだすのだ。』

「わかった・・・それならやってみたい。」

聖獣は、大きな口を開けて笑った。











俺は、聖獣から少しだけ力を分けてもらうと、早速石板から出て行った。

しかし、そこで俺の記憶は一度途切れる。












気が付いたらそこは、柔らかな光に囲まれた場所だった。



そうだ、朝だ・・・。

随分と深く、眠っていたらしい・・・。

「目が覚めましたか、ゼオ様。」

「目が覚めた・・・?」

目の前には、知らないお爺さん・・・いや、違う。

俺はこの人を知っている。

「じぃや・・・。」

「昨日も遅くまで旦那様の帰りをお待ちでしたからね。さぁ、朝御飯ができていますぞ。」

「・・・・・・。」



知ってる・・・この匂い、この景色・・・。

俺の家だ・・・。



「じぃや、父さんはいないの?」

「父さん?ははぁ、いつの間にか大人になられましたな。昨日まではパパと泣きじゃくっていなさったのに・・・。」

「えっ、あ、いや、パパだよね・・・ハハハハ・・・。」

俺はそんな風に、乾いた笑いでじぃやを誤魔化した。



しかし、朝食にありつこうとした次の瞬間、またしても俺の記憶は途切れる。











次に目が覚めたのは、夜。

ソファーの上で、バイオリンを抱えて眠っていたらしく、じぃやに起こされた。

俺は気怠い身体を無理矢理起き上がらせ、目を擦った。

「さぁ、旦那様のお帰りですよ。」

「え、とう・・・パパに会えるの!?」

俺は嬉しくなり、父さ・・・パパを迎えに玄関へ走った。



「パパ!!」



思いっきりパパの胸へと飛び込むと、パパは優しく俺を撫でた。
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