next night
□第十六夜
1ページ/7ページ
「二人も着替えたことだし、一先ずもうここを出よう。」
私はポケットの中身を確認しながら二人に告げる。
しかし、珍しく二人がすぐに腰を上げることはなかった。
「出ようったって・・・。」
「・・・・・・。」
「何?あ、お父さんのことなら気にしないで。今まで散々家族のことを蔑ろにしてきたんだから。・・・大丈夫。私、もうこの家に戻るつもりもないし。」
「いやいや、問題大有りだろそれ!?・・・ってそうじゃなくて!!いや、そうでもあるけど・・・」
「セツナ。外を見てみろ。」
「外?」
カイに言われるまま部屋のカーテンを明け、その景色のあまりの白さに絶句した。
「雪・・・嘘。そりゃ確かにこっちではもうすぐで冬だったけど・・・!!」
思わず部屋にあったデジタル式の目覚まし時計に目を移した。
「ヤダ・・・なんで?向こうで過ごした分だけ時間が経っている・・・。」
途端に背筋が凍りつき、のろのろとベッドに腰掛ける。
するとそのとき、鍵をかけたドアが強くノックされた。
「セツナ、ここを開けなさい!!」
「えっ、お母さんまで!!?」
「あんた一体今までどこで何してたの!!?警察にまで捜索願い出してたのよ!!?」
「ど、どどどど・・・どーしよ!?」
「落ち着けよセツナ!!兎に角話をするしかないだろ!?」
慌てふためく私にタカオはそう言ってくれるものの、この二人がいるからどんな言い訳も苦しいものになってしまう。
「か、カイ!!」
「・・・本気でこの家に、この世界に帰ってくるつもりが無いのならば、窓から逃げるのが得策であろう。」
「!!」
「おいカイ、何を言ってんだよ!?」
「セツナ、決断はお前に任せる。」
「私は・・・。」
ドアの外のことや、さっきの日付のことを考えると、ちゃんと話さなきゃって思う。
でも、さっきお父さんに話したところで、信じてもらうことは出来なかった。
・・・お母さんだって、きっと無理だと思う。
「・・・・・・いい。」
「聞こえん。」
「ここに戻らなくていい!!行こう、二人とも!!」
私はカーテンを思いっきり引っ張り、窓を開けるとベランダに出た。
三人で協力してすぐにカーテンを柵にくっつけて、カイから順番に下へ降りる。
ビーサンだったけれど、履き物がまだあってよかった。
結構雪は積もっていて、地上へ降りると膝下くらいまですっかり覆われてしまう。
「これからどこへ向かう気だ、セツナ。」
「川を目指す・・・かなり厳しいと思うけど、急ごう。」
ザクザクと雪を掻き分け、私達は走り出した。
しかし、夏用の服装で、雪の中を走るのは中々根気のいることだった。
ましてや私達はプールからこちらへ飛ばされた為、身体は元々冷えていたのだ。
「・・・ヤバ・・・・・・。」
走り出してものの3分。
思うように足が動かなくなり、途端にスピードが落ちてくる。
タカオもカイも結構しんどそうで、それから5分後。
私達は車で追ってきたお父さんに捕まってしまった。
「・・・・・・。」
車の中で、私は一言も言葉を発することは無かった。
お父さんにぶたれた頬が痛い。
無理矢理捕まれた腕が痛い。
これからどうなってしまうのか、考えただけで・・・・・・怖い・・・・・・。
「セツナは上でお母さんと話してなさい。・・・お父さんはこの二人に、話がある。」
「!!ふざけるな!!二人に何する気だ!?」
「話をするだけだ!!!!」
久しぶりに怒鳴られ、身体がカチンと固まる。
お父さんに怒鳴られるのは苦手だ・・・。
「・・・まずは身体を暖めて来なさい。」
「・・・・・・。」
「いいな!?」
「っ、・・・・・・はい・・・。」
去り際に二人と目が合う。
"ごめんね・・・。"
心の中で謝って、私はお母さんと共に部屋へ戻った。
「セツナ、貴方がいなくなって本当に大変だったのよ?さっき警察の方や学校にも連絡したけれど、このままじゃ受験にも響くわよ?」
「・・・・・・。」
「・・・ねぇセツナ。お母さんもお父さんも悪かったって思っているわ。・・・ジンがいなくなって、貴方もいなくなってやっとわかったのよ。やり直したいと思ってる。・・・だから、」
「あの二人とはもう会うな、そう言いたいんでしょ?」
「・・・・・・。」
「・・・お父さんに言っても信じてもらえなかったけど、私達、他の世界から来たんだ。・・・私はそこで生きることに決めたから。もうここへ帰ってこないつもりで出て来たんだから、邪魔をしないで。」
「・・・・・・。」
お母さんは完全に黙りこんでしまった。
私は今度こそとコートを羽織ると、お兄ちゃんの服を取りに行くために部屋を出る。
一瞬だけ、お母さんの嗚咽が聞こえたけれど、振り返ることはなかった。