next night

□第十六夜
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「二人も着替えたことだし、一先ずもうここを出よう。」

私はポケットの中身を確認しながら二人に告げる。

しかし、珍しく二人がすぐに腰を上げることはなかった。

「出ようったって・・・。」

「・・・・・・。」

「何?あ、お父さんのことなら気にしないで。今まで散々家族のことを蔑ろにしてきたんだから。・・・大丈夫。私、もうこの家に戻るつもりもないし。」

「いやいや、問題大有りだろそれ!?・・・ってそうじゃなくて!!いや、そうでもあるけど・・・」

「セツナ。外を見てみろ。」

「外?」

カイに言われるまま部屋のカーテンを明け、その景色のあまりの白さに絶句した。

「雪・・・嘘。そりゃ確かにこっちではもうすぐで冬だったけど・・・!!」

思わず部屋にあったデジタル式の目覚まし時計に目を移した。

「ヤダ・・・なんで?向こうで過ごした分だけ時間が経っている・・・。」

途端に背筋が凍りつき、のろのろとベッドに腰掛ける。

するとそのとき、鍵をかけたドアが強くノックされた。



「セツナ、ここを開けなさい!!」

「えっ、お母さんまで!!?」

「あんた一体今までどこで何してたの!!?警察にまで捜索願い出してたのよ!!?」

「ど、どどどど・・・どーしよ!?」

「落ち着けよセツナ!!兎に角話をするしかないだろ!?」

慌てふためく私にタカオはそう言ってくれるものの、この二人がいるからどんな言い訳も苦しいものになってしまう。

「か、カイ!!」

「・・・本気でこの家に、この世界に帰ってくるつもりが無いのならば、窓から逃げるのが得策であろう。」

「!!」

「おいカイ、何を言ってんだよ!?」

「セツナ、決断はお前に任せる。」

「私は・・・。」



ドアの外のことや、さっきの日付のことを考えると、ちゃんと話さなきゃって思う。

でも、さっきお父さんに話したところで、信じてもらうことは出来なかった。

・・・お母さんだって、きっと無理だと思う。



「・・・・・・いい。」

「聞こえん。」

「ここに戻らなくていい!!行こう、二人とも!!」



私はカーテンを思いっきり引っ張り、窓を開けるとベランダに出た。

三人で協力してすぐにカーテンを柵にくっつけて、カイから順番に下へ降りる。

ビーサンだったけれど、履き物がまだあってよかった。

結構雪は積もっていて、地上へ降りると膝下くらいまですっかり覆われてしまう。



「これからどこへ向かう気だ、セツナ。」

「川を目指す・・・かなり厳しいと思うけど、急ごう。」

ザクザクと雪を掻き分け、私達は走り出した。

しかし、夏用の服装で、雪の中を走るのは中々根気のいることだった。

ましてや私達はプールからこちらへ飛ばされた為、身体は元々冷えていたのだ。



「・・・ヤバ・・・・・・。」

走り出してものの3分。

思うように足が動かなくなり、途端にスピードが落ちてくる。

タカオもカイも結構しんどそうで、それから5分後。

私達は車で追ってきたお父さんに捕まってしまった。















「・・・・・・。」

車の中で、私は一言も言葉を発することは無かった。

お父さんにぶたれた頬が痛い。

無理矢理捕まれた腕が痛い。

これからどうなってしまうのか、考えただけで・・・・・・怖い・・・・・・。














「セツナは上でお母さんと話してなさい。・・・お父さんはこの二人に、話がある。」

「!!ふざけるな!!二人に何する気だ!?」

「話をするだけだ!!!!」

久しぶりに怒鳴られ、身体がカチンと固まる。

お父さんに怒鳴られるのは苦手だ・・・。

「・・・まずは身体を暖めて来なさい。」

「・・・・・・。」

「いいな!?」

「っ、・・・・・・はい・・・。」

去り際に二人と目が合う。



"ごめんね・・・。"

心の中で謝って、私はお母さんと共に部屋へ戻った。













「セツナ、貴方がいなくなって本当に大変だったのよ?さっき警察の方や学校にも連絡したけれど、このままじゃ受験にも響くわよ?」

「・・・・・・。」

「・・・ねぇセツナ。お母さんもお父さんも悪かったって思っているわ。・・・ジンがいなくなって、貴方もいなくなってやっとわかったのよ。やり直したいと思ってる。・・・だから、」

「あの二人とはもう会うな、そう言いたいんでしょ?」

「・・・・・・。」

「・・・お父さんに言っても信じてもらえなかったけど、私達、他の世界から来たんだ。・・・私はそこで生きることに決めたから。もうここへ帰ってこないつもりで出て来たんだから、邪魔をしないで。」

「・・・・・・。」

お母さんは完全に黙りこんでしまった。

私は今度こそとコートを羽織ると、お兄ちゃんの服を取りに行くために部屋を出る。



一瞬だけ、お母さんの嗚咽が聞こえたけれど、振り返ることはなかった。
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