next night
□第十三夜
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「だったらどうする気だ・・・!?」
「・・・愚問だな。」
「っ・・・!!」
張り詰めた空気のお陰で背中に嫌な汗をかく。
しかし、ケインは私の手を掴む力を緩めた。
「え・・・?」
「・・・これ以上、あんなものを作らせない。」
一瞬、我が耳を疑った。
「ジムやゴウキをあんな風にしたベイなんて・・・もう沢山だ!!」
「ケイン、あのベイブレードがどんなものかを知っていて・・・そんなことを言っているの?」
「当たり前だろ!?俺達は、こんなことの為に旅をして来た訳じゃない!!木ノ宮と戦えることは嬉しいが、それでも・・・。」
段々と消えそうになる声に、私はなんて声を掛けたらいいのか分からなかった。
でも分かったのは、彼の仲間は既にユウヤ君同様、デジタル聖獣に心を支配されてしまったということ、それから、彼はこれ以上その悲劇を起こしたくないということだ。
「・・・・・・。」
・・・戦いは避けられない。
一週間後までにドラキリューが回復するかはわからない。
でも戦えなくても、何か私にだってできることがきっとある筈だ。
「・・・そこに非常時用の隠し扉がある。何も見なかったことにするから、すぐにここから出て行ってくれないか。」
ケインのお陰でなんとか抜け出すとこが出来た私は、出口で待ち伏せをしていたオズマの元へと歩み寄った。
「オズマ、ここへ連れてきてくれてありがとう。・・・でも私は戦うよ。」
「・・・・・・。」
「ベイブレードが使えなくても、キリがいなくても、あんな聖獣、絶対に消してやる。」
あんな思いをする人が、これ以上増えないように・・・。
「・・・・・・。」
オズマは何も言わずに歩き出す。
それについて行きながら、チームサイキックのアジトを振り返った。
「・・・・・・。」
梅雨の湿った雲が今にも泣き出しそうだった。
BBA本部へ戻ると、そこは大変なことになっていた。
「おお、セツナ君!!無事だったかね!?」
警察に事情を話していた大転寺会長は私を見るなり、慌てて駆け寄ってきた。
「BBAの皆にも今、必死に探してもらっていたところだったんだよ・・・いやぁ、しかし見つかってよかった・・・。」
「ごめんなさい・・・実はオズマに連れ出されて居たんです。」
「な、なんと!?それではあの少年はBBAの誇るセキュリティを突破しただけではなく、防弾ガラスまで・・・!?」
「いやぁ、予想以上のスペックで本当に焦りますよね。・・・それで会長、折り入ってお話があるんですが・・・。」
次の日。
私とカイ、それからマックスは木ノ宮家の庭で練習をしていた。
結局あれから私は、BBA本部にいることをやめて木ノ宮家に戻らせてもらうことになったのだ。
リスクは勿論ある。
でもそれは、BBA本部にいても結局変わらないってことがわかったから・・・。
何より、今はチームが心配だ。
バラバラになりかけた心を、なんとか一つにしなくてはならない。
タカオ、キョウジュ、ヒロミちゃんが学校へ行っている今、本来ならばこの時間帯には私達の他に、レイがいるはずである。
しかし、昨日のタカオとの喧嘩があったからか、彼の姿は見えない。
というか、昨日私がBBA本部に帰って来た時にも、レイだけ姿が見えなかったのだ。
「レイ、どこ行っちゃったんだろうね。」
マックスがぽつりと呟く。
「うん、何か事件に巻き込まれてないといいけど・・・。」
「・・・奴に限ってそんなことは無いだろう。・・・ただ、」
私とマックスはカイの言葉に注目する。
しかしそのとき、カイは私達の目線を受け止めることはなく、木ノ宮家の門を見やった。
「レイ・・・。」
「レイ!!」
目の下に隈を作り、無言で私達の元へと近付くレイ。
「大丈夫?もしかして昨日ずっと練習してたんじゃ・・・わっ!?」
フラッと倒れそうになるのを私とマックスで支える。
「平気だ。・・・俺に構わず、練習を続けてくれ。」
「っ・・・・・・。」
その眼光の鋭さに、私達は何も言えなくなってしまうのだった。