next night
□第一夜
1ページ/6ページ
あれから一年の歳月が流れた。
次の夜が、始まる。
学校の帰りのこと。
すっかり吐く息は白くなり、私は友達のヒロミと一緒に通学路を家の方向へと帰っている途中だった。
「はぁ・・・年が明けたら3年生か・・・。」
「どうしたのよセツナ。そんなに落ち込んで・・・セツナは推薦もらえる成績じゃない。」
「いや、まぁ受験も憂鬱なんだけどさ・・・。」
「あ!さては部活のことね?部長になれなかったからまだいじけて・・・」
「まさか!別に部長はなれなくていいんだよ。・・・私じゃ部長って器じゃないしねー。」
「またまたそんなこと言って・・・セツナ、去年見かけたときより大分大人っぽくなったじゃない!」
ヒロミはバシッと私の背中を叩いた。
私があの世界から戻って一年。
ちっともキリは迎えに来ない。
身長はあんまり伸びなかったけれど、あの頃より大分身体は成長していて、このままじゃキリが私のことを見てもわからなくなってしまうかもしれない。
・・・なんてね。
そんなことあるはずない。
でもね、キリ・・・流石に待ちくたびれるわ。
「はぁ・・・。」
私は再び大きく息を吐いた。
「じゃあね。」
曲がり角でヒロミと別れる。
暫く歩くと、初めてキリと出会った川が見えてきた。
・・・ホント、早くしないと私受験生になっちゃうよ・・・。
カイ、タカオ、マックス、レイ、キョウジュ・・・皆元気かな・・・。
「・・・あ。お母さんからメール来てる。」
こっちに帰ってきて、私はキリに携帯やら財布やらを預けたままだったので、散々な思いをした。
お陰で両親と連絡が着くまでの一ヶ月間は給食以外に食べるものは無かったし、親が帰ってきたら帰ってきたで滅茶苦茶怒られるし・・・。
・・・ま、帰ってきてくれただけで嬉しかったりするんだけどね。
結局、離婚も見直してくれたし(とはいえ、やはり全然帰ってこないことに変わりはないのだけど・・・。)、去年よりは全然安定した生活が送れている。
私は新しくなった携帯で返信メッセージを打ち込むと、ポケットに戻した。
「帰りにレモン買ってこなきゃ。・・・ん?」
不意に川に目を向けると、2.0の視力を誇る私の目が、鳥のような生き物が溺れているのを発見する。
しかもその鳥、かなりデカイ。
多分サイズで言えば鶏くらいじゃないかな?
「キリじゃない・・・けど・・・。」
黙って見過ごすことのできない私は、あのときと同じようにコートと鞄、それから靴を置いて川へ飛び込んだ。
あのときと違って流れが殆どないことが幸いだった。
それでも、やはり冬の初めの川に飛び込むなんて、本当にどうかしてると自分でも思う。
「はぁっ、はぁ・・・寒っ・・・マジで寒い!」
やっとのことで岸に上がり、橋まで戻ってコートを着込む。
そして鞄から取り出したタオルで鳥を拭いてやろうとしたところで、改めてそいつを目にした私は固まる。
「ねぇ・・・貴方もしかして朱雀・・・?」
『ああ。久しぶりだな、麒麟に選ばれし少女・・・セツナ。』
「久しぶり・・・じゃなくて。なんで貴方がここにいるの!?キリは!?」
『大方察しも付いているだろう。』
「・・・キリに何かあったの・・・?」
『・・・・・・。麒麟に限った話ではない。』
「それはつまり・・・?」
『私達聖獣が、何者かに狙われている。』
朱雀の話をまとめると、私がいなくなったあと、BBAのメンバーはそれぞれの生活に戻っていたのだが、ある日を境に謎のベイブレードを操る子供たち、それからタカオのみ、サングラスを掛けたおじさんたちに狙われるようになったのだとか。
幸いキリは上手く身を隠していて、彼らには見付かっていないそうなのだが、回復しにくい場所にいる為、早急に主である私の力が必要になったのだとか。
「タカオ・・・おじさんたちにどんな失礼なことをしたんだろう・・・。」
『・・・・・・。兎も角、奴等の目的はどのみち私達だということはハッキリしている。』
朱雀は私のボケを華麗にスルーした。
「まぁ事情はわかったよ・・・でも、私がいれば早く回復できるなんて、あのとき言わなかったじゃん・・・。」
『人の時間は限りがあるしな。それに、いくら奴が時間を操ることができるとはいえ、無闇に力を使いたくなかったのだろう。・・・お前の願いを叶えるために。』
「・・・・・・!」
『急げ。私はあまり時間や空間の行き来は得意ではない。カイが居ない今しかないのだ。』
「急げって・・・・・・いま行くの!?っていうかカイが居ないってどういうこと!?」
『無論だ。』
朱雀はグイグイ私の制服を引っ張る。
参った・・・・・・今回はなんの準備もしてないぞ。
でも朱雀がこれだけ言ってるし、カイのこともすごく気になる・・・仕方ない。
「わかった。今すぐ私をあの世界へ連れてって。」