one night
□第二十七夜
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こうして見事ラルフに勝利したタカオだが・・・
「やいラルフ!!勝ってやったぞ!!文句はねぇな!?」
「あぁ。それでいい。」
「それでいいって・・・なんだよその態度!!お前のせいで俺がどんな思いしたのかわかってんのかぁ!?一発殴ってやる!!」
「待つネタカオ!!」
「そうだよタカオ、待ちなって!!・・・ユーロチームは、わざわざ私達に大切なことを教えに来てくれたんだから!!」
「え、え・・・?」
「確かにタカオを挑発しているように見えたけど、アドバイスをしているようにも見えたネ。」
「それに、今の彼等にはさっきまでの悪意が消えています。」
「え、マジ・・・?」
「どうなんだ。」
「ま、そういうことだ。」
「どええええ〜?」
ユーロチームからのアドバイスを受け取ると、オリビエが実はこの作戦は大転寺会長が仕組んだことだと種明かしをした。
「ハッハッハッハ!!」
・・・ほんっと、悪趣味なおじいさんなんだから・・・。
「っていうかいつの間に!?」
「バスが襲撃されてから、特にタカオ君は怒りに任せて決勝に挑みそうでしたからね。ハッハッハッハ!!」
ハッハッハッハじゃないでしょうに・・・。
・・・でも、こういうところが大転寺会長のすごいところだけどね。
タカオは改めて皆に、ボーグの思い通りにさせないことを誓う。
そして私達は、大転寺会長がきちんと手配してくれたバスで会場へ向かうのだった。
長い道のりだったけれども、それからは無事に会場へ辿り着くことができた。
私も充分寝かせてもらえたので、体力も大分回復した。
私達は沢山の声援を送ってくれる子供達を背に、中へと進んでいく。
大転寺会長達が手続きを済ませる間、ファン(?)の対応はタカオに任せ、私達は改めて辺りを見渡していた。
すると・・・
「来たか、クズ共。・・・死に場所を求めに。フフフフ・・・。」
ヴォルコフさん・・・!
「なんだとぉ!?」
早くも突っ掛かろうとするタカオをレイが止める。
殺る気満々の彼等は、私達に言いたいことだけ言って去ろうとする。
しかしタカオはそれを止めた。
「お前達がどんなに強い相手でも、思い通りには絶対させない!俺達は、必ずお前達を倒して見せる!!」
「・・・・・・。」
ボーグは何も言わずに、今度こそ私達から離れて行った。
初っ端から気が抜けないなぁ・・・。
私は何気なくカイを見やる。
すると、彼の目が去っていったボーグの方ではなく、もう少し上を向いていることに気付いた。
「・・・ちっ。」
そこにいたのは一人の老人だった。
離れていてもわかるくらい、威圧的なオーラを纏ったその人は、じっと私達を・・・というより、カイを見据えている。
「俺の祖父だ。」
「えぇっ!?」
じゃあこの人が・・・
「火渡宗一郎?」
「ボーグの黒幕・・・」
「そして俺を、野望達成の道具にしようとした男・・・。」
カイは強い眼差しでお祖父さんを睨んでいた。
対してお祖父さんは、カイの視線などまるで気にしてないかのように、微かに笑みを浮かべている。
しかしその目が不意に私の方へと向けられた。
「・・・っ」
さりげなくカイが私の前に立つと、お祖父さんは私達に背を向け、そのまま奥へと消えていった。
控え室へ行っても、私達の妙な緊張感はなかなか解けなかった。
そんな中、タカオだけが明るい雰囲気で、出場の順番を決めようと言い出す。
「よぉし!俺が最初だーっ!今度こそ奴等の鼻っ柱へし折ってやりてぇからな!」
「まったく・・・」
「タカオはこんなときでも元気ネ。」
レイとマックスが薄く笑うのをよそ目に、私はドラキリューを取り出して、指でビットをなぞった。
マックスのこと、カイのこと・・・BBAのこと・・・。
最早私は、ベイブレードを自分の願いを叶えるための手段ではなく、出会えた仲間と繋がり、成長するためのものだと認識していた。
だから、戦うのは自分の為だけじゃない。
仲間の為に・・・なんとしてでも勝ちたいという、強い意思があった。
だから・・・
「タカオ、私・・・」
「待て。」
私の言葉は凛としたカイの声によって遮られる。
一瞬カイと目があったけれど、私は無言でカイに発言を許した。
「・・・一戦目は俺にやらせろ。」