one night
□第二十六夜
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カイがやっとホテルに辿り着いたのは、日付をとうに越してからのことだった。
部屋に入ると皆寝静まっており、苦しそうなセツナの息遣いだけが聞こえた。
カイは自分のベッドがきちんと整えられていることを視界の隅に捉えつつも、セツナの元へと近付く。
しかし、セツナの傍らでその小さな手をしっかり握ったまま、突っ伏して眠るタカオを目撃した途端、今までにないくらい苦い表情を浮かべてしまった。
「・・・・・・おい。」
セツナが聞いていたら震え上がるだろう低い声で、カイはタカオに声をかける。
しかし、すやすやと気持ち良さそうに眠るタカオにはカイの声なんて聞こえていないのだろう。
「・・・・・・。」
「むにゃむにゃ・・・。・・・っんぐが・・・っ」
カイはタカオの首根っこを掴むとそのままセツナからひっぺがし、空いた彼女の手を握った。
汗をかいたのか少し湿った前髪を撫でて、月明かりに照らされている彼女の寝顔を見つめる。
「・・・待たせたな。」
「・・・ん・・・」
「!!」
ピクリとその手が動き、寝息がやんだので、カイは思わず離した。
「・・・・・・カイ・・・?」
「・・・あぁ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
セツナの思考が止まる。
それに合わせてカイも口をつぐむ。
すると段々意識がハッキリとしてきたセツナの手が、しっかりとカイの手を握る。
「嘘・・・っホントにカイ!?」
「正真正銘俺だ。」
「カイッ・・・!!」
ガバッと布団を抜けてカイに飛び付いたセツナの目から、大粒の涙が溢れてくる。
それが自分の胸や肩を濡らしていることに気付いたカイは、強くセツナを抱き締め、そして優しく口付けをするのだった。
目を覚ますとカイが居た。
夢なんかじゃない。
「ほんっっっとに心配したんだからね!」
カイは何も言わずに私の頭を撫でている。
申し訳なさそうに、だけれどもどこかホッとしたような様子のカイの表情は、いつもと違って少しだけ幼く見えた。
「・・・・・・すまなかった。」
「・・・・・・。」
ボソッと、蚊の鳴くような声でそう告げられ、何も言えなくなる。
「・・・・・・もう、どこにもいかないでよ・・・・・・っ。」
握った手が離せない。
そんな私の気持ちを察してか、カイは私を再び布団に横たえると、あやすようにポンポンと手を重ねる。
こんなに優しいカイは今まで見たことがなかった。
きっとカイなりの罪滅ぼしのつもりなのだろうし、この先いつだってこんな風に優しくしてくれることなんて滅多に無いだろう。
だから少しでも目に焼き付けておきたくて、頑張って意識を保とうとするのに、カイに会えた安心感から強烈な睡魔が襲ってきて、程なくして私は意識を手放すのだった。
翌日。
カイが帰っているとわかった皆はどんな反応をするのかと期待していたが、案外普通に受け入れていた。
カイにとってもそっちの方がありがたいのだろう。
最初は躊躇いが見えたけれども、すぐに以前までと同じような空気に戻ることができた。
・・・・・・というわけにはいくわけがない。
「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
高々と上げられる、オレンジジュースの入ったグラス。
私達はカイを囲ってちょっとしたお祝いをしていた。
「おかえりなさい、カイ。」
「ぷはっ・・・お前が帰ってきてくれて、ホント安心したぜー。」
「Yes。一時はどうなるかと思ったネ。セツナちゃんも倒れちゃうし。」
「アハ・・・心配掛けたね。でも本当に、帰ってきてくれてよかった・・・。」
「敵味方のまま戦うなんぞ、とてもじゃないが願い下げだからな。」
口々に思ったことを述べる私達を、カイはいつものように黙って聞いている。
そんな中、キョウジュはなんだかんだいってこのことがよかったのではないかと言う。
というのも、一緒に行動をしておきながら、カイと皆の間には少し壁のようなものがあり、今回の件でそれが取っ払われたからだ。
確かにキョウジュの言う通り、カイは私以外のBBAの皆と進んで行動を共にすることはほとんどなかった。
・・・本当の意味で、やっと私達はチームとして一つになることができたのだ。