one night
□第二十五夜
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皆のところまでどうやって帰ったのかは覚えていない。
ホテルまでどうやって帰ったのかも覚えていない。
私はどうやってこのベッドに入った?
なんで眠れないの?
なんで胸が押し潰されるように痛いの?
「カイ・・・。」
この手に握ったドランザーを離せない。
私はその日、全く寝付けずに朝を迎えた。
朝食の時間になり、気怠い身体を起こしてレストランへ行く。
マックスはジュディさんを見送るために空港へ行ったらしく、4人で微妙な空気のまま食事にする。
しかし、タカオだけはいつものようにガツガツと料理を口に運んでいる。
それを見たレイやキョウジュがカイについて何かを言っているけれど、私の耳はその会話を聞き流すだけだった。
世界大会は3日後・・・。
なのに、ちっとも身が引き締まらない。
自分が何かをしているという感覚がまるでない。
・・・そう、これはお兄ちゃんがいなくなったときと同じだ。
もう私の中で、カイはそれくらい大きな存在になっていたのだ。
部屋へ戻りベッドへ寝転がる。
暫くすると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「な、なんですか貴方は!?」
キョウジュの驚いた声がしたのでのそのそと上体を起こして見てみる。
そこにはサングラスを掛けたおじさんがいて、私達を迎えに来たという。
「カイ様がお待ちです。」
「カイが・・・?」
ピクリ。
「・・・・・・ぇ」
そのとき、握っていたドランザーが動いた気がした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ。」
私は完全にベッドから起き上がると、コートを羽織っておじさんの前に立った。
「・・・わかった。いますぐ案内して。」
「セツナ、生憎ですがカイに会いにいく必要はもう・・・」
「何言ってんだよキョウジュ!!カイが迎えを寄越したんだぜ?行く行く、どこまでも行くぜ!!」
止めようとするキョウジュの言葉をタカオは遮った。
しかし、何故か私達はヘリコプターに乗せられる。
カイが呼んでいるというから、てっきりあの修道院で待ち構えているかと思ったのに・・・。
「カイ、どうしたんだろうな。急に呼び出すなんて・・・あ、ロシアチームで仲間はずれになって、"BBAに戻りたいよぅ"とか言ってんだぜ、きっと。」
「そんなわけあるか。」
「だよなぁ・・・。」
「はぁ・・・。」
嫌な予感しかしない。
正直なことを言うと、あんなカイとは戦いたくなかったし、戦っても到底勝てるどころか隙を見つけることすらできないのはわかっていた。
でも、この機会を逃しちゃいけないとも思った。
だってさっきから、ドランザーが私に訴えてくるような気がしてならないから・・・。
「・・・なんとかしてチームWHOの時みたいにできればいいんだけど・・・。」
「ん?何か言ったか?セツナ。」
「タカオ・・・。」
どうしよう、なんて口には出来なかった。
なんとかするしかないのだから。
「・・・昨日修道院に忍び込む前に言ってた作戦、覚えてる?」
「ああ。でもあの手は今のカイ・・・つーか、ブラックドランザーには通じるかわからないだろ?だから昨日は大人しく戻ってきたんじゃねーか。」
「そうだけど・・・でも、なんとかして隙を作れないかな?」
「マックスもいない今、このメンバーだけでは難しい話だな。」
「その作戦の最後はセツナにしか出来ないんですよね・・・?酷なことを言いますが、ドラキリューがあの技をまともに喰らって無事でいられる保証なんてなありません。・・・いまのカイは、セツナ自身にも平気で攻撃を仕掛けてくるんですよね?万が一この作戦で麒麟が取られたら・・・もう後は無いんですよ?」
レイとキョウジュが会話に混ざってくる。
「・・・っ。」
「セツナ。」
「でもっ・・・・・・。」
何も言えなくなる。
思わず俯いて手を握ると、ドランザーが目に入る。
ドランザー・・・・・・そうだ。
「できるかも・・・。」
「え?」
「ドランザーで戦う。」
「ドランザーで!?でも、そんなに上手く行くでしょうか?」
「カイのベイブレードだよ?・・・少なくとも、簡単に負けたりはしないと思う。ドラキリューを使うのは一番最後だ。・・・その前に、皆でブラックドランザーを弱らせるの。」
私の作戦を聞いてキョウジュは暫く考え込む。
「可能性は大分上がりますね・・・・・・わかりました。私も全力でサポートします。賭けてみましょう、その作戦に。」