one night

□第二十三夜
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ユーロチームと別れの挨拶を交わし、大転寺会長と合流できた私達は、漸くロシアへ向かうことができる。

しかし列車に乗り込んだ途端、大分疲れていたらしい私達は、その緊張の糸が切れた瞬間、死んだように眠ってしまった。



もう記憶がなくならないから浅く眠る必要もない。

完全に心が解放され、私も半日ぐらいぐっすりだった。












そんな中、夢を見た。

幼いカイが泣いていて、でも私はそんな彼を抱き締めることはおろか、近付くことさえもできずに引き離されていく。

伸ばした腕は傷だらけで、反対の手には今にも崩れそうなほどボロボロになったドラキリュー。

それでも精一杯幼いカイへと手を伸ばすのに、私の身体はどんどん彼から遠ざかる。

そしてそのまま私は、カイもお兄ちゃんもいない、元の世界へと帰ってしまい・・・・・・。















「はぁっ・・・!?」

目が覚めて飛び起きると、ぐしょぐしょに汗をかいていた。

「夢・・・?」

パーカーを脱いでシャツ一枚になる。

隣や下のベッドを見てみるけど、誰も起きていなかった。

「嫌な夢・・・。」

梯子を降りて曇った窓を擦ると、真っ白な景色が現れた。

車内は暑いからわかんなかったけど、もうすっかり寒い場所に来てしまっていたようだ。

「こっちの世界に来てから2ヶ月か・・・。」

元の世界の記憶も戻り、急に学校のことを思い出す。

カイに言われて少しだけ考えないようにしていたけれど、思い出してしまったからか恋しくなり始めている。

確かにベイブレードは楽しいし、このBBAのメンバーはかけがえのない仲間だ。

・・・でも、ロシア大会が終わったら、どうなる?

キリの力をまだまだ伸ばすために、私は強くなり続けなければならない。

聖獣を倒し続けなければならない呪いを掛けられていたチームWHOのようにはならなくとも、それは私がキリと契約を結んだときの約束だからだ。

レイのように世界を旅するのも悪くはないけど・・・でも、そんなお金なんてないし、第一カイはどうしよう?

「でもこんな風に刺激が受けられる機会なんてそうそうないよね・・・。」

溜め息を吐きながら個室を出て、食堂車を目指す。

お水だけもらって、テーブルにドラキリューを置いて眺める。

「・・・キリ、また大きくなっていたな。」

もうそろそろカイをも超すのではないかというくらいの高さになったキリを思い出す。

キリは私の強さに比例するから、この2ヶ月で私は相当成長したということになる。



コトリ。



そんな音がして、目の前に何かが置かれる。

「カイ・・・起きたんだ。」

「あぁ。」

カイはコーヒー(しかもブラック)を啜りながら電車の外へと目を向ける。

「・・・地図で見たときからずっと思ってたけど、ロシアって広いね。」

「そうだな。」

「レイも行ったことが無いっていってたけど、ロシアって何があるんだろ。」

「・・・さあな。・・・セツナ。」

「ん、何?」

「お前のいた世界では、ロシアはどんな国だった?」

「え・・・。」

珍しくカイから話題を振られて、一瞬だけ思考が止まる。

「・・・んー、よくわからないけど、美人が多い国だって昔聞いたことがあったなぁ。でもそれくらい。あっちにはベイブレードなんてなかったから、そういう意味じゃ知る機会すらなかったし。・・・ねぇ、こっちだとロシアはやっぱりベイブレードも強いのかな?」

「・・・・・・。」

「カイ?」

「・・・ん、あぁ。世界大会のBブロックへ出場した国だ。弱いわけがなかろう。」

「あ、そっか。」

「・・・・・・。」

「?」

なんだか少しだけぼんやりとしているな・・・カイも疲れてるのかもしれない。

「カイ、もうちょい休む?なんかボーッとしてるみたいだけど・・・」

「・・・そんなことはない。」

「ホントに?ならいいけど・・・あ、そうだ。私ね、キリに記憶を戻してもらったんだ。これでもうなにも忘れないよ!もしも元の世界に帰ったとしても・・・」

「・・・っ!?」

ガタッ

「え、カイ?」

突然彼が立ち上がり、私は眉を顰めて見つめる。

「・・・・・・セツナ、お前はこの大会が終わったらどうする?」

「あ・・・いや、そんな・・・・・・仮の話だよ。元の世界に帰るのは。」

その言葉を聞いて、カイの表情がいくらか柔らかくなる。

「ただ、世界大会が終わったらこんな風に強い相手と戦ったり、みんなで特訓したり、いろんなとこに行ったりとかできなくなっちゃうじゃん?かといってお金もないし・・・だからどうしよっかなって、思ってたんだ。」

「・・・・・・そうだな。」

カイはそれきり黙ってしまう。

怒らせちゃった?と思って他の話題を振ろうとしたけど、カイは残ったコーヒーを一気に飲み干して食堂車を出ていく。

その背中が絶対に着いてくるなと言っているようで、私は席から立ち上がれなかった。




・・・・・・後で、もう一度話し掛けてみよう。
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