one night
□第二十夜
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イタリアへと続く道程を、トラックの荷台に揺られながら行く。
「こうしてるとほんとにのどかだなぁ・・・。車での移動にして正解だったぜ。」
と、旅には向いてるけど旅行には向かないであろう性格のタカオが伸びをする。
というのも・・・。
「なぁに言ってんですか。タカオが寝坊したから電車に乗り遅れたのでしょう?」
「あ、あれそうだっけ・・・?」
そう。
タカオはまたしてもやらかしたのだ。
「しらばっくれるな。」
「ルーズすぎるネ。折角セツナちゃんが可愛い格好してヒッチハイクしてくれたのに。」
全員の視線が私に向けられる。
「わりぃわりぃ・・・助かったぜ、セツナ。」
「私は別にいいけど・・・」
隣で終始無言のカイに目を向ける。
マックスが、カイは私にこの姿で他の男の前に出てほしくないのではないかと言うけれど、実際に本人に確かめたわけではないからわからない。
あ、でも前にこの姿でマイケルに狙われたときはさっさと着替えてこいって言われたな・・・。
仕方ない、勿体ないけど後で着替えるか。
「ま、こうやって優しいおじいさんにも拾ってもらえたんだし、ちゃんと目的地にも着けるんだしさ。ねっ!!」
「ハハッ、そうじゃな。折角のんびりした場所に来たんじゃ。時間にせっつかれるようなことは忘れちまえ。」
「ほらな。」
「もう、しょうがないネ。」
「ほれボウズ、街が見えたぞ。」
私達はおじいさんのお手伝いを済ませると、ジャンカルロの家を目指す。
カイロナに勝ち、邪悪な聖獣に取り憑かせた元凶とも言える彼に会うというので、私はちょっとだけ緊張している。
そしてそれは、教えてもらった地図に書かれた家を実際に目の当たりにして、更に酷くなる。
「お、お城・・・?」
「ほんとにここなのかよ!?」
「ええ。地図は合っています。・・・兎に角、呼び鈴を押してみましょう。」
キョウジュは近くのインターホンに触れようと歩み出るが、そのタイミングで聞こえた声に止められた。
「ストーップ!」
「貴方は・・・?」
「なんだお前はこそこそして・・・あ、まさか泥棒!?」
私達は門から出てきた男の子を止める。
しかし、その男の子はこの家の関係者だと言う。
「それはよかった。私達はこの屋敷に住むジャンカルロという少年に会いに来たのですが、ご存知ですか?」
「・・・・・・。ああ、知ってるけど、やつになんの用だい?あ、まさか君が何か用があるのかな?」
「えっ。」
スッと私に近付くと、男の子はそのまま私の手を取る。
・・・が。
「触るな。」
すごい力でカイが私を引っ張り、男の子から離す。
「なんだボーイフレンドがいたのかよ。ちぇっ。」
「おいお前!無視すんなよな!!」
「あー悪い悪い。で、何の用だっけ?」
タカオはその男の子に自分がジャンカルロと戦いに来たことを話す。
男の子はベイブレードに興味はないようで、タカオは諦めて呼び鈴をならそうとした。
しかし、それを止める男の子。
「なんでだよ。」
「ふぅ・・・だって、僕がそのジャンカルロだからね♪」
「なぁにぃぃ!?」
私達が驚いていると、後ろからヒツジ・・・ではなく、執事が現れた。
執事はジャンカルロを追い掛けるが、彼は軽い身のこなしで逃げてしまう。
「待てジャンカルロ!!俺とバトルしろーっ!!」
「悪いけど大事な用事があるんでねーっ♪」
街へ戻り、これからどうするかを話し合う。
ジャンカルロに戦う意志がない限りはこれ以上ここに留まるのも時間の無駄だと話すキョウジュに、タカオは腑に落ちない態度を取っている。
レイとマックスもどちらかといえばキョウジュ寄りの意見のようだが、ここでなんとカイがタカオを煽り始めた。
「諦めるんだな?木ノ宮。まぁどうせやったところで、お前が負けるんだろうがな。」
「えっ、ちょっとカイ!?」
私達は呆然とカイを見上げる。
「なんだとぉ!?」
「事実だろ。」
「そんなこと、やってみなきゃわかんないだろう!?」
「どうかな。」
「〜っ、バカにしやがって。決めた。誰がなんと言おうと、俺はジャンカルロとバトルするぜ。」
あーあ・・・完全に火がついちゃった・・・。
呆れながらもその様子を見守る。
「ダメですよ。第一、ジャンカルロの場所もわからないのに。・・・・・・・・・・・・?」
キョウジュが遠くを見つめていることに気付いた私達は、そちらへ目を向ける。
するとそこには、二人の女の子にぺこぺこするジャンカルロの姿があった。
タカオは嬉しそうに立ち上がる。
しかし、女の子と楽しそうに話すジャンカルロを見て、段々顔を顰めて行き・・・。
「やい、ジャンカルロ!!お前それでもベイブレーダーか!?」
ズカズカと歩いていき、ジャンカルロに向かって噛みつくように立ち塞がった。
なんとしてでも戦いたいタカオは、ジャンカルロにバトルを申し込むが、女の子に夢中なジャンカルロはまるで相手にしない。
「お前と戦うまで、俺はローマを離れないからな!!」
「勘弁してくれよ。今日だって君のお陰で待ち合わせに遅れて、二人にプレゼントを買わなくちゃならなくなったんだよぉ?」
「あらぁ。」
「それじゃぁなぁに?私達にプレゼントするのは嫌々だっていうのぉ?」
「おっと。これは失礼。今のは言葉の綾と言うもの。・・・お許しを。」
ジャンカルロはそう言うと、女の子の手を取りキスをした。
「な、な、な、なななななな、なぁにしてんだこのぉー!?人が真剣な話をしてるってのにぃぃ!!」
「落ち着いてくださいタカオ!」
ワナワナと震えるタカオをキョウジュが止める。
「下手に喧嘩するのはよくない。」
「・・・なんて羨ましいことをー・・・。」
ズルッ
私達は揃ってコケた。
しかし、カイだけはそんなタカオを見て勝ち誇ったように笑っていたのを、私は見逃さなかった。
「タカオーッ!!」
「だってアイツちゅーしたんだぜチューッ!!」
「西洋じゃキスは挨拶みたいなもんネ。」
と、初対面で私の頬にキスをしたマックスが言う。
タカオ・・・貴方結構女の子に興味あったんだね・・・。
「え、じゃあマックスはあのとーちゃんとしてんのか?」
「するよ。セツナちゃんともしたし。」
「「「「何っ!?」」」」
「"とも"じゃなくて"にも"でしょ!!マックスが勝手に頬っぺたにやってきたんじゃん!!」
「・・・・・・。」
カイが無言で圧力を掛けてくる。
いや待ってよ後から聞いた話だけど、貴方そのとき見てたじゃん!!
今になって思い出してそんな目で見ないでよ!!