one night

□第十九夜
1ページ/6ページ

好きだと言う気持ちを認め、負けたような悔しい気持ちも確かにある。

しかしそれ以上に清々しい気持ちで満たされているのは、相手も好きだと言うことがわかったからなのだろうか。



「カイ。いつから私のこと好きだったの?」

「・・・同じ質問にお前が答えられるのか?」

「いや、全然。・・・気付いたら好きになってたと思うし・・・。」

「ほぅ。」

私はもう一度だけ、ポフッと目の前の胸に顔を埋める。

「・・・何度も助けられて、その度にこの匂いを覚えたの。・・・安心する。ずっと、側にいたいって・・・いてほしいって、段々思うようになったから・・・。」

普段の態度とは裏腹に、優しい力加減で頭を撫でる手。

その気持ちよさに思わず微睡んだときだった。

社内アナウンスが入り、電車がブレーキを掛けだす。

「パリに着いたようだな。」

「ん・・・。」

名残惜しいけれども、そっと離れて見つめ合う。

「カイ・・・」

「ひゃっほー!!着いたぜ花のひよこパリー!!!」

「それを言うなら"みやこ"ですよ!・・・あ。」

突然ドアが空き、真っ先に飛び出してきたのはあろうことかうちのメンバー。

涙で顔をグシャグシャにした私と、眉間に皺を寄せるカイ。

この状況を見て、彼等は何を思ったか・・・。

「あー!!まさかカイが泣かしたのか!?悪い男だなー。」

「違うネタカオ!!これはどう見ても・・・っ」

「・・・・・・。」

カイは何も言わずにタカオに近づくと、絶対零度の目で見下ろす。

「な、なんだよカイ・・・。」

「そうだ。俺が泣かした。・・・コイツを泣かしていいのは俺だけだからな。」

「「「「「!!!!」」」」」

私達は言葉を失った。













BBAが手配してくれたホテルへ着き、夕飯とシャワーを済ませる。

今回は3人部屋しか取れなかったようで、私達は二人一組でベッドを使うことになった。

当たり前のようにカイの元へ行けば、まだ私達の関係の変化に気付いていないタカオが冷やかしに来る。

「セツナっていつもカイのとこに行くよなー。やっぱ付き合ってんのかぁ?」

「タカオ貴方ね・・・。」

呆れて何も言えない。

しかし、カイはそんな私の手を引いてベッドへ座らせた。

「なんだ、まだ気付いていないのか。」

「へ・・・?」

ポカンと口を開けるタカオ。

「きちんと説明しないと理解しませんからね・・・タカオは。」

「説明しても理解しないときもあるけどな。」

「な、なぁ。何言ってんだお前ら?」

私達を見比べるタカオの肩に、マックスがポンと手を置いた。

「タカオ。邪魔しちゃダメネ。・・・ボクだって認めたくなかったケド・・・あの二人、両思いだったんだよ。」

「なっ・・・なぁ!?」

「ふん。」

口をパクパクさせるタカオに対し、カイは自慢気な笑みを浮かべている。

「さっさと寝るぞ。もう夜も更けた。」

「えっ、えええええー!?」



カチッと電気が消され、皆それぞれベッドへと入る。

私は変わらないカイの温もりを感じながら目を閉じ、そのまま眠りについた。












・・・筈だった。












チュンチュン・・・と、小鳥の囀りで目を覚ました私は、一人分広くなったベッドで唖然と彼がいた痕を見下ろしていた。



「なんで・・・どこ行ったの・・・?」













朝御飯を軽く済ませると、私は街へ皆を引っ張った。

「しっかしどこへ行ったんだ?カイのやつ。」

「そういえば、前に香港でもこうやってカイを探したことがあったネ。」

「そのときは確かキリに気配を探させていたよな?今回もやってみたらどうだ?」

レイの提案は最もだと思う。

しかし、それが出来ない理由があった。

「・・・実はもう、ホテルで一回調べてみたんだ。」

しかし、キリが探知できるのは精々半径1q圏内らしく、その中にドランザーの気配はなかったという。

「ちぇー。やっぱ地道に探すしかないかぁ。・・・お?」

タカオが不意に足を止めると、そこにはベイバトルが楽しめるお店が。

道行く人々も時々、ベイブレードモチーフのアクセサリーをつけるくらい、ベイブレードの歴史がある街だとレイが説明してくれるものの、私はカイが気掛かりでしょうがなかった。

恐らく大した用事じゃないとは思うけど・・・もうっ、なんでいっつも黙っていなくなるかな?
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ