one night
□第十九夜
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好きだと言う気持ちを認め、負けたような悔しい気持ちも確かにある。
しかしそれ以上に清々しい気持ちで満たされているのは、相手も好きだと言うことがわかったからなのだろうか。
「カイ。いつから私のこと好きだったの?」
「・・・同じ質問にお前が答えられるのか?」
「いや、全然。・・・気付いたら好きになってたと思うし・・・。」
「ほぅ。」
私はもう一度だけ、ポフッと目の前の胸に顔を埋める。
「・・・何度も助けられて、その度にこの匂いを覚えたの。・・・安心する。ずっと、側にいたいって・・・いてほしいって、段々思うようになったから・・・。」
普段の態度とは裏腹に、優しい力加減で頭を撫でる手。
その気持ちよさに思わず微睡んだときだった。
社内アナウンスが入り、電車がブレーキを掛けだす。
「パリに着いたようだな。」
「ん・・・。」
名残惜しいけれども、そっと離れて見つめ合う。
「カイ・・・」
「ひゃっほー!!着いたぜ花のひよこパリー!!!」
「それを言うなら"みやこ"ですよ!・・・あ。」
突然ドアが空き、真っ先に飛び出してきたのはあろうことかうちのメンバー。
涙で顔をグシャグシャにした私と、眉間に皺を寄せるカイ。
この状況を見て、彼等は何を思ったか・・・。
「あー!!まさかカイが泣かしたのか!?悪い男だなー。」
「違うネタカオ!!これはどう見ても・・・っ」
「・・・・・・。」
カイは何も言わずにタカオに近づくと、絶対零度の目で見下ろす。
「な、なんだよカイ・・・。」
「そうだ。俺が泣かした。・・・コイツを泣かしていいのは俺だけだからな。」
「「「「「!!!!」」」」」
私達は言葉を失った。
BBAが手配してくれたホテルへ着き、夕飯とシャワーを済ませる。
今回は3人部屋しか取れなかったようで、私達は二人一組でベッドを使うことになった。
当たり前のようにカイの元へ行けば、まだ私達の関係の変化に気付いていないタカオが冷やかしに来る。
「セツナっていつもカイのとこに行くよなー。やっぱ付き合ってんのかぁ?」
「タカオ貴方ね・・・。」
呆れて何も言えない。
しかし、カイはそんな私の手を引いてベッドへ座らせた。
「なんだ、まだ気付いていないのか。」
「へ・・・?」
ポカンと口を開けるタカオ。
「きちんと説明しないと理解しませんからね・・・タカオは。」
「説明しても理解しないときもあるけどな。」
「な、なぁ。何言ってんだお前ら?」
私達を見比べるタカオの肩に、マックスがポンと手を置いた。
「タカオ。邪魔しちゃダメネ。・・・ボクだって認めたくなかったケド・・・あの二人、両思いだったんだよ。」
「なっ・・・なぁ!?」
「ふん。」
口をパクパクさせるタカオに対し、カイは自慢気な笑みを浮かべている。
「さっさと寝るぞ。もう夜も更けた。」
「えっ、えええええー!?」
カチッと電気が消され、皆それぞれベッドへと入る。
私は変わらないカイの温もりを感じながら目を閉じ、そのまま眠りについた。
・・・筈だった。
チュンチュン・・・と、小鳥の囀りで目を覚ました私は、一人分広くなったベッドで唖然と彼がいた痕を見下ろしていた。
「なんで・・・どこ行ったの・・・?」
朝御飯を軽く済ませると、私は街へ皆を引っ張った。
「しっかしどこへ行ったんだ?カイのやつ。」
「そういえば、前に香港でもこうやってカイを探したことがあったネ。」
「そのときは確かキリに気配を探させていたよな?今回もやってみたらどうだ?」
レイの提案は最もだと思う。
しかし、それが出来ない理由があった。
「・・・実はもう、ホテルで一回調べてみたんだ。」
しかし、キリが探知できるのは精々半径1q圏内らしく、その中にドランザーの気配はなかったという。
「ちぇー。やっぱ地道に探すしかないかぁ。・・・お?」
タカオが不意に足を止めると、そこにはベイバトルが楽しめるお店が。
道行く人々も時々、ベイブレードモチーフのアクセサリーをつけるくらい、ベイブレードの歴史がある街だとレイが説明してくれるものの、私はカイが気掛かりでしょうがなかった。
恐らく大した用事じゃないとは思うけど・・・もうっ、なんでいっつも黙っていなくなるかな?