one night

□第十五夜
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「どわっ!?」

「タカオ!!」

会場の上の方を走っていた私達の目の前で、スタジアムから飛ばされたベイが壁にめり込んだ。

思わず下を見てしまったけれど、かなりの距離がある。

てかこれ当たったらただじゃ済まないよね?

もっと管理しっかりした方がいいんじゃない?

「遅かったな。」

「黙って置いてったくせによくいうね。」

「試合はもう決まったぜ、アメリカの2連勝だ。」

そんな・・・こんなに早く!?



「レディースアーンドジェントルメーン!!」



ブレーダーDJの声とともに、天井が空いた。

何が起こるんだとそちらに注目していたら、なんと空からパラシュートを付けた男の子が。

忽ち女の子達の黄色い声で会場は大盛況になる。

「ヒャッハー!!・・・ん?」

そのとき、こちらを見たその子と目が合う。

「・・・・・・。おっと。」

着地したあとも尚、こちらを見続ける男の子。

「どうしたんでしょう、ずっとこちらを見ていますね。」

「へっ、俺らがここまで残ったから驚いてんのかもな!!」

しかし、次の瞬間その男の子はこちらに向かって投げキッスをするではないか。

「「「「「え?」」」」」

一斉に私に視線が集う。

「!?!?」

戸惑いから、左右に視線を泳がしてしまう。

なんなの・・・!?













「「「キャーッッッッッ!」」」



ボール型のシューターに、聖獣。

最初から私達をあっと言わせた男の子は、ものの5秒で相手のベイブレードを粉々にして試合にピリオドを打った。












一通り試合を見終わり、私達はラスベガスの夜景がきれいに見えるレストランで乾杯をした。

カチンッと、グラスをぶつけ、オレンジジュースを喉に流し込む。

会長の力と言えど、なんか場違いじゃないかとそわそわしているのはどうやら私だけみたいで、皆は普通に過ごしている。

「げ。」

・・・と思ったら違った。

バイキング形式のため、用意されたテーブルに乗っかり貪るように食べ始めるタカオを見て、私達は呆れてものも言えなかった。

「・・・私、ちょっと外すね。」

私が立ち上がると、目の前のカイも腰を浮かした。

「ボクも・・・。」

「俺も・・・。」

続いてぞろぞろとマックス、レイも私についてくる。

「え、ちょっと皆さん・・・置いてかないでくださーいっ!!」












お手洗いの鏡の前で髪型を直す。

改めてワンピースを着た自分を見るけど、ほんの1ヶ月ちょっとの間とはいえ、ずっとパーカー姿で過ごしていたから違和感を覚える。

しかし、こんなレストランでいまから着替えるのもなんなので、そのまま出るのだけど。



ギィ・・・



「おまたせ・・・ってあれ?」

廊下には誰もいなかった。

あーあ、男の子は早くていいよね!

溜め息を吐きながら歩を進めた私だったけれど、突然背後から声をかけられて歩みを止めた。

「Hey、そこのお嬢さん。」

「え?」

振り向くと、そこには昼間見かけた、

「PPBの・・・マイケル!?」

途端に私は一歩離れる。

「ハハハ、そんなに警戒しなくていいよ。」

「何の用?」

ジリジリと詰め寄られ、ついに背中が壁に当たる。

「Ok、怖がらなくていいよ。ただ、連絡先を教えてほしいんだ。」

「連絡先・・・?」

そんなあからさまに情報を教えろだなんて、そこまでPPBは私達を警戒したのか・・・

「・・・っていやいや、何やってんのー!?」

気付けば手を取られ、そのまま唇を落とされる。

「さっき目があった時から気になっていたんだ。・・・まさかこんなところで再会できるなんてついてるぜ。」

「つ、ついてないっ!!ねぇ、まさか他のPPBの人達もいるの?何が狙いなわけ?」

チッチッチ、と指を振りつつ私の唇に触れる。

なんなのなんなのこれ・・・・・・もしかしてだけど私、いま・・・狙われてんの!?

「いまは俺だけ取材を受けていてね。まぁでも、君と会えたからいいよ。このまま抜け出そうか。」

「いや、丁重にお断りします。」

「Oh・・・逃がさないと言ったら?」

私は即座に身を屈め、脱出を試みた。

しかし、腕を捕まれて壁に押し付けられてしまう。

「うっ・・・離して!」

叫んだその時、別方向から力強く引っ張られる。

ギュッと目をつぶると、ふわりと誰かに抱き止められる。

この匂い・・・

「カイ!!」

「悪いがナンパなら他を当たってもらおう。」

「へぇ、何。お前がその子のボーイフレンド?」

「そうだ。」

な、なんですとー!?

抗議してやりたかったけど、顔を強く胸に押し付けられているせいで叶わない。

「・・・Ok。それじゃあ今回は身を引くことにするぜ。・・・ただし、次は容赦しねぇ。その子は俺がもらうからな。」

「ふん、馬鹿馬鹿しい。貴様にそれほどの力があるようには思えんな。」

「精々強がってろよ。それじゃあな、バーイ。」



足音が一つ、遠ざかっていく。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

暫くして漸く解放された私は大きく息を吸い込んだ。

「ぷはっ・・・!ありがとカイ、助かった。」

「隙が多い。」

「はいスミマセン・・・。」

すぐに頭を下げる。

「それにしてもなんで目ぇつけられたかなぁ・・・。」

「そんな無防備な格好をしてるからだ。」

「う・・・。」

「作戦はもう終わったのだろう?奴に付きまとわれたくなければさっさと着替えてこい。」

「ぅはーい・・・・・・。」

大人しくお手洗いに戻る為、カイに背中を向けた。

しかしそこでふと、気になったことがあったので振り返ってみる。

「カイ・・・私達いつから付き合ってんの?」

「本気にするとは貴様も奴と同レベルのバカだな。」

「なっ・・・うるさいな!わかってるよ嘘だってことくらい!!助けてくれてありがとね!!!」



バタンッとドアを開け、大股でお手洗いへ入っていった。
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