one night
□第十夜
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「わぁたって、ちゃんとけいこやるよぉじっちゃぁん・・・」
タカオの寝言でハッとして周りを見渡すと、皆寝ていた。
いや、キョウジュのベッドだけ空いてるから、きっとベイブレードの調整をしているのだろう。
微妙にまだ眠くない私は、様子を見に行くことにした。
コツ、コツ・・・・・・と、私の足音だけが廊下に響く。
「どこにいるんだろ、キョウジュ・・・。」
確かどこかにコンセントの使える部屋があった筈だ。
えーと確か・・・
「おい。」
「!!!」
キリじゃない声に呼び止められると同時、肩に何かが触れて身体が大きく跳ね上がる。
「な、なんだレイか。心臓止まるかと思った・・・。」
「それはこちらの台詞だ。・・・セツナ、途中で誰かに会わなかったか?」
「誰かって?・・・あ、キョウジュなら見てないよ、私も探してるとこだから。」
「いや、知らないのならいい・・・。仕方がない。先回りするか。」
「へっ?」
突然手を引かれ、どこかへ連れていかれる。
「え、何どうしたのレイ?何かあるの?外雨降ってるじゃん!」
「キキが忍び込んだ。」
「え・・・?」
「恐らく、俺達の情報を盗みに来たのだろう。だから、中庭で待ち伏せをする。」
そう淡々と告げるレイの目は、何かに立ち向かうように、静かな炎を灯していた。
キキって、仲間だったんだよね?
それなのに、恨んで、邪魔して、消そうとして・・・そこまで相手にしなきゃならないほど、レイは悪いことをしたのだろうか?
・・・いいや、そんなことはない。
少なくとも、私が知っているレイはそんなことしないって、わかっている。
私だけじゃない。
他のBBAの皆だってそう思ってる。
「本当は、戦いたくないくせに・・・。」
手を引かれながら呟いたら、その手が少しだけ強く私の手を締める。
外は雨が降っているから、ドア付近で待機するようにレイから言われた。
でもそれじゃあレイが濡れちゃうじゃんと袖を掴めば、俺の問題だからと、その手をそっと離される。
「逃道を作らないようにしてくれればいい。・・・奴とはここで決着を付ける。」
「レイ・・・わかった。」
強くうなずくと、レイは雨の中、スタジアムの方へと歩み始めた。
それから間も無くして、誰かが走ってくる音が近付く。
音からして2人・・・?
思わず飛び出て、通路を塞ぐ。
「お前っ・・・!どけっ!」
「イヤだ!!」
予め持っていた箒を構える。
そして、間合いにキキが入ったとたんにそれを振りかざすが、なんと予想以上に脚力が強かったせいで、軽々と私の身長を飛び越えられてしまった。
「セツナ、捕まえてくださーいっ!!」
キョウジュに言われてすぐに追いかけるも、すばしっこくて追い付かない。
「キョウジュ!すぐに皆を起こしてきて!」
「わかりました!」
振り返りながらそう叫ぶと、私もキキに続いて廊下を走る。
やっと外に着いたときには、既にレイと対峙していて、二人ともシューターを構えている。
「3、2、1・・・ゴー!シュート!!」
「レイっ・・・!!」
結局こうなっちゃうのか。
雨の中、激しいぶつかり合いが続く。
これだけでも改めて、次元の違いを思い知らされるのに、聖獣が現れると更に白熱する。
しかしそんなとき、キキが思いもよらない言葉をレイに掛けた。
「レイ・・・お前、本気で俺を倒すんだな。」
「当たり前だ。俺の前に敵として現れたからには、お前は俺が倒す!」
「敵・・・敵だと!?」
何・・・?
演技?
それとも本気・・・?
私は目を凝らした。
『お前はどっちだと思う。』
「キリ・・・。」
『よく見極めろ。お前にとっても大事なことだからな。』
私は改めてそちらに目を向けた。
「仲間を平気で踏みにじれるのかよ、レイーッ!!!」
「お、俺は・・・。」
レイの瞳が揺らぐ。
まずい・・・。
私はあの目をよく知っている。
試合中、私もそうなるときがあった。
「レイ、迷っちゃダメッ・・・!!!」
思わず叫んだが、その瞬間に白虎の光が弱くなり、そして・・・
『白虎!!』
翡翠に近い光が空へ昇り、ドライガーは回転力を失う。
「俺は一族を裏切ったわけではない・・・ましてやドライガーを裏切ったわけでは・・・」
レイの話を聞いて、少しだけその気持ちを知った今、こんなことになって私までも心が締め付けられるようだった。
どれだけ悲しいだろう、どれだけ苦しいだろう、どれだけやるせないだろう、どれだけ悔しいだろう・・・。
しかし、そんなレイに向かってキキは止めを刺そうとする。
そのときだった。